鬼滅の刃 ちぇいんコレクション 誕生花ver.: アニメグッズ紹介
何でもない日だった。 春休み中盤、新学期に向けての準備で不死川と共に出勤した日の帰り道、少しだけ遠回りをして自宅近くの桜が植えられた河川敷の遊歩道をを二人して歩いて帰る。 今年は桜の花の開花が早い。 四月の初めにして既に花弁が零れるような満開だ、その様子に不死川が目を細めた。 「いいもんだなぁ…桜ってのは。 」 毎年、不死川はそう言って眩しそうに桜を眺める。 夕暮れにはまだ遠い時間だが西に傾き始 めた陽の光の温みが淡紅の花弁を鮮やかに染め始めている。 その度、オレは心に柔らかな灯りが灯ったような安らかな気分になる。 「そうだな…」 夕暮れにはまだ遠い時間だが西に傾き始めた陽の光の温みが淡紅の花弁を鮮やかに染め始めた。 名所とは程遠いただの川辺の桜道だが、オレはここの桜が一番好きだ。 なんの事はない、不死川と共に毎年見ることができるからだ。 教師になりそれなりの時が過ぎ、清々しい別れと初々しい出会いの入り混じるこの季節を幾度となく見送り、気づけば前から定められた年月を随分越しているような気がする。 穏やかな風が手を伸ばせば届く距離を空けて歩く自分達の間を桜の花弁を乗せゆっくりと追い抜いていった。 「いい風だな。 」 不意に呟く不死川の声か不思議に心に留まり思わず零れた言葉。 「お前みたいだ。 」 「なんだ、そりゃ」 不死川が立ち止まり首を傾げた。 「……なんとなくな。 」 論理的な回答を好む不死川を納得させるような言葉が続かず言い淀むと 「まっ…答えなんかてめぇには求めねぇよ。 」 と表情を緩ませた不死川が両手を掲げ大きく伸びをした。 緊張を解す時の奴のクセだ、オレの言葉に何かを感じだのか、いつもなら言葉が足らないやら、言いたい事が一切解らんと難癖をつけてくるのに。 「なぁ、ついに竈の妹も卒業したなぁ。 」 「ああ、時透もな。 」 互いに手を焼いた生徒の名を挙げ何とはなしに間を取り繕いポツリポツリと言葉を投げ合う。 不死川との付き合いは三年を過ぎた、共に暮らし始めてだ。 世間では恋人関係と呼ぶが自分たちは同僚の教職者との事やオレが曲がりなりにも生徒指導担当との事もあり常に不死川は自分たちの関係が露呈しないよう気を張っていた。 最初は男同志だと言うことを気にしている…とばかり思っていたがそうではなかった。 アイツの口から零れる言葉は『お前の家族に申し訳ない』やら『姉さんに心配性かけねぇか』やら『お前の血筋残んねぇな』等、オレやオレの家族を気にする言葉ばかりで一切自分の事は出ない。 あまりにも出てこないので最近、その事について尋ねると不死川は少しだけ目を伏せ答えた。 「知ってんだろ、俺のややこしい体質。 こんなの遺伝してみろ、子供にとって生まれた日から迷惑な親父になんだぜ…血を残すつもりはない、それに俺んちは玄弥がいる。 他の弟妹達も直ぐに大きくなるからなんも心配はねぇ…ただ、嫁に行った姉貴しがいねぇ…跡継ぎになるだろぉ、てめぇは。 」 それ以上の事を不死川は言わなかった その返事を今日しようとオレは思っていた。 「不死川…ちょっと話さないか？」 「なんだぁ、喋ってるだろう。 」 「止まって話したい。 」 「止まってて…もう少しマシな言い方ないか？」 そう言いながらも遊歩道に等間隔に設置されているベンチを瞬時で見つけ親指で指し示す不死川の反応の速さは流石だ。 大きな桜の木の下に設置された木製のベンチの上には既に薄く花弁が積もっている、それをオレのスペースの分まで掃らい不死川が『座れ』とばかりに顎をしゃくる、不死川の無意識な優しいさが堪らなく好きだ。 そのベンチに腰掛けたのものの、いざとなると何からはなそうか迷い直ぐに言葉が出ない。 「…で何だ？」 その様子を察したか頭の後ろで腕を組んで桜の木を不死川は見上げた。 オレの顔を見ないように奴なりの気づかいだ。 「なぁ、不死川…」 「だから、何だ？」 「…お前はこの前からやオレの家の事ばかり気にする、何故なのか、それを聞きたかった。 」 不死川は黙ったまま。 「オレとお前の事だろ、オレの家族と何の関係があるんだ？ それに両親はいないし、姉さんだけだ。 」 「だから、余計に…なんだよ冨岡。 」 ゆっくりと不死川が顔をオレに向ける。 真摯な眼差しと一文字に結ばれた口元。 「何故だ？」 「たった一人の弟が男と付き合ってんだって分かってみろ、嫁ぎ先で何を言われるかわかったもんじゃないだろ！ 俺の存在がお前の姉貴を傷つけるようなことがあっちゃならねぇだろうが。 」 「…………」 四年ほど前に不死川の弟が学校で起こした乱闘騒ぎを思い出した。 スポーツ学科クラス半分を巻き込んでの大乱闘、止めに入ったのでよく覚えている、最中、不死川玄弥が叫んでいたこと、それは 『なんにも知らないのに好きな事ばかり言いやがって！！ 兄ちゃんは世界一優しんだ！！』 全てのことが今さらなが腑に落ちる。 「そうだったんだな…」 「…あぁん？」 「いや、なんでもない。 」 「一人で納得すんな。 」 「すまない、お前は聞いた通り世界一優しんだな。 」 一陣の風が吹き抜け桜の木の枝がと自分たちの髪を大きく揺らし薄紅の花弁が時雨の様にゆるゆると降ってくる。 その何枚かが次に発する言葉を見つけられず珍しく怯んだ不死川の前髪や肩に留まる。 「オレはそんな優しいお前と一緒にいる事ができて嬉しいと思っている。 」 「なっ…何だよ藪から棒に！」 「いや、前から思っていた、俺が死んだら墓くらいはお前の隣でもいいか？」 「おい、先に殺すな、バカっ！」 「オレは一緒の方がいいんだが…」 「籍入れないと無理だろう！」 「なら、そうしよう。 」 「……さらりと言うな、バカ！」 花時雨は止まない。 花弁が一枚、頬に留まり白さが引き立つ。 その位まで不死川の頬は紅潮し、微かに震えている様にも見える 「怒っているのか？」 「当たり前だ！ そんな大切な事！ 晩飯の献立決めるように言うな！ てめぇはいっぺん死んで来いっ！」 「…大切な事？」 一瞬考えて、オレは気付いた。 「オレは結婚をお前に申し込んだんだな！ ムフフ…」 「もう、何も言うな！ 黙れっ…ってか、笑うな！」 俺は知ってる、こうなった不死川は必ず後で承諾してくれる。 今までだってそうだった、きっとこれからもそうだ。 オレは立ち上がり手を差し出す。 「帰るぞ、不死川、オレたちの家に。 」 舌打ちをしながらも素直に掴まる不死川の手にそのまま指を絡ませ歩き出す。 明るいうちは決して許してもらえなかった恋人繋ぎで帰路に着く、オレは幸せだ、それに不死川もきっと幸せだ、何故なら自分たちはこうなるべきして出会ったのだから。 前から持ち続けていた不思議な自信は今日、確信に変わった。
次の
