地面に叩き落としてやるぜ 対策。 【ポケモンGO】ジェネレーションチャレンジシンオウでのみんなの詰みポイント

対 ヒグマ②

地面に叩き落としてやるぜ 対策

ガーディアンベースが今後の方針を決めている中、話題の一つとなっている少年…ヴァンはエリアDでの事件以来、絶え間ないイレギュラーからの攻撃を受けていた。 エリアEに強力なイレギュラーの気配を察知して向かおうとしたが、エリアEへの近道となる場所はインナーにあるため、ヴァンは遠回りをしながらエリアEに存在する発電所に向かうことになったのだ。 しかし流石にイレギュラーからの攻撃をかわしながら進むのは無理であり、モデルOのアーマーには小さくない損傷が入っている。 「くそ…しつこい奴らだ…!」 振り返ったヴァンの表情には疲労の色が濃く出ており、まともに休んでいないことが分かる。 しかし、ホルスターからモデルOの装備であるアルティメットセイバーを抜き、背中に取り付けていたバスターショットを引き抜く。 「そこを退けぇっ!」 即座にチャージバスターを放つ。 巨大な光弾は複数のメカニロイドを破壊し、残りが怯んだ隙にセイバーで斬り込んだ。 戦闘によって徐々にモデルOのエネルギーが高まっていき、それをガーディアンベースのエネルギー感知器は捉えた。 「これは…!?」 「どうしたの?」 オペレーター達の様子に気付いたプレリーが尋ねる。 「エリアEの発電所付近に巨大なエネルギー反応…これは、例のライブメタル・モデルOの反応です!そして周囲にイレギュラーの反応も多数!」 それを聞いた全員の表情は喜びから緊張へと変わった。 「エリアE…好都合だわ。 エール、エリアEの発電所にはモデルO以外のライブメタルの反応があるの…だから…」 「分かってる、ヴァンを助けてそこにいるイレギュラーからライブメタルを取り返せばいいんでしょ?」 「ええ、その通りなんだけど…」 「無理をするなよエール。 もし逃げられそうなら逃げろ、生きていれば必ずチャンスはある…でも死んだらそれすらないんだからな」 「分かってる…もうあんな無茶はしないから」 ジルウェの言葉に苦笑しながらエールはモデルEに向かうためにトランスサーバーへと向かう。 まずはエリアCの居住区の地下にあるトランスサーバーへ転送し、噴水近くにある黄色い扉を潜ればすぐだったはずだ。 「こういう時にトランスサーバーって不便だよね…」 トランスサーバーの悪用を防ぐためとは言え、トランスサーバー間での移動しか出来ないのは辛い。 外に出るためにはロックマン状態でなければ出られないため、警備のメカニロイドに気付かれないように地下から抜け出し、エリアEに繋がる扉を潜り抜けた。 目的地である発電所に辿り着いた時には無数のイレギュラーの残骸が転がっていた。 「これ…全部、ヴァンがやったのかな…」 『恐らくは…そして、この施設…まだエネルギーを作り出しているみたい。 記録によるとここはイレギュラーの襲撃を受けて、放置されたはず…気をつけて、エール。 この施設…何か秘密があるはずよ。 』 「分かってる」 ヴァンがイレギュラーの大半を倒してくれたのか残っている数はそれほどでもない。 遠距離ならばZXバスターで、近距離ならZXセイバーで攻撃し、生き残ったイレギュラーを倒しながら施設内部に潜入する。 内部はかなり荒らされており、足の踏み場もないくらいにメカニロイドの残骸が転がっていた。 『この施設内部ではほとんどの機能が停止しているわ…多分、彼が電源装置を破壊したのかもしれない…今なら侵入者用の罠も作動しないわ。 』 「よし、急いでヴァンに追い付こう」 エールもダッシュ移動で施設内を駆け回る。 移動を妨げる罠も電源が入っていないので飾り同然。 生き残りのイレギュラーが迎撃するものの、新しいロックマンの力の前では足止めにもならない。 『エール、新しい力はどう?』 複数のライブメタルのロックオンは誰も試したことがない。 何らかの副作用があるかもしれないので、プレリーが不安になるのも無理はない。 「大丈夫だってば、寧ろ体に力がみなぎってきて怖いくらいだよ」 モデルXでは不利だった近接戦闘もこれなら迅速に対応出来るし、ダブルロックオンは二つのライブメタルと一つになっているためか、どこか不思議な安心感を覚える。 停止したベルトコンベアの床をダッシュで駆け抜け、奥にある梯子を駆け上がると、扉の向こうから爆発音と衝撃が響き渡った。 「い、今のは…!?」 『ライブメタル・モデルOの反応…恐らく彼だわ…』 「分かった…」 扉を潜ると、大型のメカニロイドの残骸が転がっており、その周囲に真紅のロックマン・モデルOが立っていた。 「ヴァン…?」 エールの声に反応した彼は振り返るが、すぐに前を向いた。 ほんの少しだったが、少年の顔を見間違えたりはしない。 「ヴァン…だよね…?」 「…………久しぶりだなエール。 エリアBやエリアDで会ったけどな」 「やっぱりヴァンなんだ!生きていてくれたんだ…」 「…怪我、大丈夫か?先輩は?」 「この通り大丈夫!ジルウェも元気よ、ここの調査が終わったらアタシと一緒にガーディアンベースに行こう?ヴァン、酷い怪我してるし…」 良く見ればヴァンの状態は酷いものだった。 初めて見た時と比べてアーマーは傷だらけでヘルメットも内部のパーツが露出している。 あの日から、ヴァンへのイレギュラーの攻撃の激しさを物語っていた。 「ごめん、俺はエール達と一緒には行けない。 俺がいるとみんなに迷惑がかかる」 「そんな、何で!?イレギュラーのこと?それならアタシも一緒に戦うし、ガーディアンだってアタシ達を助けてくれる。 遠慮なんて…」 まさかの拒否にエールは動揺するが、何とか落ち着きを取り戻してヴァンを説得しようとする。 「そうじゃない…そうじゃ…うう…っ」 突如、苦しそうに頭を押さえて膝をつくヴァンにエールが駆け寄ろうとする。 「ヴァン!?どうし…」 「来るなっ!」 ヴァンの怒声にエールの足が止まる。 「ヴァン…」 「頼む…来るな…来ないでくれ…俺は…お前を攻撃したくないんだ…っ…くうっ!」 苦しそうに呻きながらヴァンはこの部屋から飛び出す。 その姿をエールは呆然となりながら見送るしかなかった。 「一体…ヴァンに何が起きてるの…?」 「エール、あの時、ヴァンのライブメタルから異様な力を感じた。 恐らくあいつに取り憑いたライブメタルがあいつを乗っ取ろうとしているのもかもしれん」 「乗っ取るって…ライブメタルがヴァンをイレギュラーにしようってこと!?」 「モデルVと同じくらい危険な力だ…彼をガーディアンベースに連れていこう。 助けられるかは分からないけれど、あのままでいいはずがない」 モデルZの言葉にエールは目を見開き、モデルXはガーディアンベースに連れていくべきだと判断する。 「そうだよね、今度はアタシがヴァンを助けるんだから!」 エールも部屋を飛び出し、ヴァンを追い掛ける。 次の扉を潜ると、幾つもの光球が施設内を巡っていた。 「何これ…光の球が施設内を巡ってる…?」 不思議そうにエールが足を止めて光球を見つめていると、プレリーからの通信が入った。 『この反応は…まさかサイバーエルフ?』 「サイバーエルフ?何なのそれ?」 聞いたこともない単語にエールは疑問符を浮かべる。 『プログラム生命体と呼ばれる電子で出来た妖精よ。 でも、どうやってこんな大量に…?もしかして、ここの施設は…このサイバーエルフ達からエネルギーを作り出しているのかもしれない…!』 「それがこの施設の秘密ってわけね」 『酷い…!サイバーエルフだって命を持った生き物なのに…!エール…お願い!この施設を止めて…!」 命を道具のように扱うセルパンにプレリーは怒りを覚え、エールに施設を止めるように頼む。 「勿論、これ以上セルパンの好きにはさせないんだから!」 奥にある穴に飛び込み、下に降りていくと砲台がこちらに砲弾を撃ってくる。 バスターで砲台の砲門の位置をずらしてこちらに当たらないようにする。 梯子を登るエリアでは時にはそれを利用してメカニロイドを破壊し、上へと登っていく。 「あれは…」 「どうやらこの施設の動力炉のようだな」 エールの視界に入ったのは人間の心臓のような形状をした動力炉だ。 「なら、あれを壊せば!」 チャージを終えたバスターを動力炉に向けて、チャージバスターを発射するエールだが、光弾はバリアに阻まれて掻き消されてしまう。 「効かない!?」 「やはり対策はされているようだね。 仕方ない、動力炉は後回しにしよう。 」 モデルXの言葉にエールは渋々ながら動力炉の破壊は諦め、足場を利用して向こう側へ移動する。 そして、奥にあるシャッターを目指す。 一方で、エールから逃走したヴァンは発電所の外に出ており、周囲を見渡していた。 「ここにいるんだろイレギュラー?早く出てこい。 モデルOが騒いで仕方ないんだ」 融合しているモデルOが騒いでいるのをヴァンは表情を顰めながら言うと、上空から一体のレプリロイドが舞い降りた。 「ふん、威勢のいい小僧だ。 流石はセルパン様が多少は気にかけているだけのことはある…そしてこの施設のサイバーエルフ達を見た以上、生かして帰すわけにはいかないな」 「お前もセルパンの部下だな?イレギュラーにしてはお喋りな奴じゃないか」 「なるほど…そこまで知っているのなら話は早い。 だが、俺をイレギュラーのような操り人形とは一緒にしないでもらおう。 俺はライブメタルの力を引き出すために作られた、謂わば疑似ロックマン…モデルHのフォルスロイド、ハイボルト。 何、怯えることはない…今からお前が感じるものは…一瞬の閃光と…永遠の死だけなのだからな!」 バーニアを噴かしてヴァンに襲い掛かるハイボルト。 「怯える?寧ろ逆だよ。 モデルOがお前の力を感じて騒いでる…お前を叩き潰せってなっ!」 突進をダッシュでかわしながらバスターを構えると、ハイボルトにチャージバスターを当てる。 「チィ!そのボロボロの体で良くそこまで動ける!」 「モデルOは底無しなんでね。 特に強い相手にはな!」 ヴァンはセイバーを抜いて怯んだハイボルトに斬りかかり、ハイボルトも翼のセイバーで受け止める。 「てやあっ!」 即座にセイバーによる連続攻撃を仕掛けるが、ハイボルトもセイバーで捌く。 「ハアッ!」 そしてヴァンを弾き飛ばすと、追撃でセイバーによる衝撃波を連続で放つ。 バスターをチャージしながらダッシュとジャンプを駆使して衝撃波を回避しながら距離を詰める。 「喰らえ!」 「ヌウッ!」 至近距離でのチャージバスターを喰らったハイボルトはたまらず空中へ逃げる。 「叩き落としてやる!」 即座にチャージセイバーで叩き落とそうと、ダッシュジャンプで距離を詰めようとするが、ハイボルトも簡単にはやられてはくれず、バーニアを噴かしてヴァンに体当たりする。 「ぐっ!?」 不意を突かれたヴァンは弾き飛ばされるが、何とか着地して反撃の機会を狙う。 しかし次の瞬間、ハイボルトとは別の方向から攻撃を受ける。 振り返ると、ハイボルトの脚部が独立して動いており、ヴァンを狙撃していた。 「本体を潰してやる!」 「甘いな!」 即座に脚部を戻し、ヴァンの動きを阻害する。 「なら、撃ち落とす…ガッ!?」 「むっ!?」 バスターを向けた瞬間に背後から雷撃がヴァンに突き刺さる。 「ヴァン!」 外に出てきたエールが、目を見開きながらヴァンを受け止めて上空を見上げる。 「貴様…何者だ?」 ハイボルトが警戒しながらヴァンを不意討ちした敵に構える。 そこには神話に出てくる天馬を模したレプリロイドが自分達を見下ろしていた。 「おやおや、数百年の時が経っているとはいえ…私の美しい名を知らぬ者がいるとは…私の名はペガソルタ・エクレール!小娘、その破壊神の器を渡してもらおう」 エールを見下ろしながらペガソルタはヴァンを自分に渡すように言い放つ。 「破壊神の…器!?何を言ってるの!?数百年の時がどうのこうの…」 「貴様がそれを知る必要はない。 さあ、早くその器をよこせ。 そうすれば見逃してやらなくはないがね?」 「嫌っ!器だか何だか知らないけど、ヴァンはアタシの大事な幼なじみよっ!ヴァンを狙うって言うならアタシが相手になってやる!!」 セイバーを構えてペガソルタを睨むエールに対して、ペガソルタは呆れたように溜め息を吐く。 「ふう、愚か者はこれだから醜い。 それで君はどうするかね?潔く退くか…それともここで死に、私の美しさの引き立て役となるか…」 「その小僧などどうでもいいが、この施設に現れた以上は貴様を生かしておくわけにはいかない。 セルパン様のためにその命を捧げるがいい」 「セルパンか…ククク…」 「何がおかしい…!?」 「いやいや、あのような小物に忠義を誓う君の姿が滑稽でね。 あの方の魂の破片をこの身に受け、私達は世界の全てを知っている…無論、セルパンとか言う小物もね…あのような臆病者があの方の魂の破片を手にしているなど、嘆かわしいよ」 ペガソルタの言葉の終わりと同時にハイボルトが突撃する。 「セルパン様の侮辱は許さん!!」 「フフフ、愚か者には愚か者が集まるようだ。 」 ハイボルトが翼のセイバーで斬りかかるが、ペガソルタも両腕の電撃槍で迎え撃つ。 「っ…エール…」 「ヴァン、大丈夫?」 「ああ、あいつは…俺がモデルOに取り憑かれた場所にいた奴らの一人なんだ。 何でかは分からないけど、モデルOに取り憑かれた俺はあいつらに必要らしい」 ゆっくりと立ち上がるヴァンはエールの方を向く。 顔色も明らかに悪く、限界が近いのが分かる。 「エール、俺があいつらを何とかするから、ガーディアンベースってところに帰るんだ。 今のうちに早く」 「ヴァンが残るのなら絶対に嫌」 「は?」 振り返ると目に涙を溜めながらヴァンを睨むエール。 「ヴァンがいなくなってジルウェやみんながどれだけ寂しい思いをしたか分かる?アタシも辛かったんだから…!」 「エール…」 「ガーディアンはライブメタルの研究もしてるらしいから、ヴァンの体も何とか出来るかもしれない。 だからヴァン、アタシと一緒にガーディアンベースに行こう。 あいつらを倒して!」 エールの顔を見て、ヴァンは自分が何を言っても聞かないことを悟る。 「 …相変わらずだな、エールの奴。 一度決めたら絶対に曲げないところとか 」 この胸中の言葉をジルウェやエールが聞いていたら絶対にヴァンが言えることじゃないと言われただろう。 「………あいつらが動きを止めた時にチャージバスターを撃ち込むぞ」 「ええ!」 タイミングを見計らう二人に気付かずにハイボルトとペガソルタはセイバーと槍を、そして互いの雷撃をぶつけ合う。 「ふん、多少はやるようだが…その程度では私は倒せん。 まあ、特別な存在である私と貴様のような愚か者とでは隔絶とした力の差があるのだよ」 「ぐっ!貴様…」 同じ属性であるにも関わらず、ハイボルトの機動力も攻撃力もペガソルタは上回っており、徐々にハイボルトが防戦一方となる。 「足掻きたまえ、貴様のような醜い愚か者が足掻けば足掻くほど私の美しさは際立つのだから」 「ほざくなっ!」 両翼のセイバーをペガソルタを振るうが、ペガソルタも両腕の槍で受け止めた。 次の瞬間。 「今だ!」 「当たれーっ!」 ヴァンとエールのバスターから放たれたチャージバスターがハイボルトとペガソルタに迫る。 「「む!?」」 二人は咄嗟に回避行動を取るが、完全に不意を突かれたこともあり、ハイボルトは顔面に、ペガソルタは左肩に直撃を受けた。 「っ、貴様ら…」 「流石は破壊神の器、回復が早いな…だが、よくも私のボディに傷を付けてくれた…死なない程度に痛め付けてやろう」 ハイボルトとペガソルタがエールとヴァンを見下ろす。 「エール、行くぞ」 「OK、ヴァンは無理しないでね」 互いにターゲットを決め、セイバーを構えて突撃する。 「ハアッ!!」 ヴァンはチャージセイバーを叩き込もうとするが、ペガソルタは槍を交差させて受け止める。 「破壊神の器とはいえ、人間風情が私に寄るな!穢らわしい!」 弾き飛ばして槍で串刺しにしようとするが、エールが死角からペガソルタにセミチャージバスターを放って牽制する。 「小娘め…」 「余所見してたら危ないよ?」 「貴様がな!」 背後からハイボルトがセイバーでエールを斬り裂こうとするが、真上を取っていたヴァンが回転斬りを繰り出してハイボルトの背に大きな傷を付けた。 「エール!」 「OK!!」 エールが予めセイバーのチャージをしており、ヴァンの合図に合わせてチャージセイバーをハイボルトに叩き込んで地面に落とす。 「合わせてくれエール!」 「任せて!」 両者はダッシュでペガソルタを撹乱し、攻撃の狙いを定めないようにさせる。 「小賢しい真似を!」 槍の電撃を飛ばしてくるも、二人には掠りもしない。 「やあっ!」 エールがダッシュで距離を詰め、チャージバスターを直撃させると間髪入れずにヴァンがセイバーによる連続斬りを叩き込む。 「舐めるなぁっ!」 発電所の電気エネルギーを吸収し、そのエネルギーを纏って突進してくる。 「かわせっ!」 二人は瓦礫を利用して突進を回避すると、近くの貯水タンクに目を遣る。 「ヴァン!あれ!」 「使えそうだな…」 ペガソルタは電気属性なので、当然使っている部品は他のレプリロイドよりも精密な物が多い。 ショットを貯水タンクに放って破壊し、ペガソルタを水濡れにすると傷口から水が入り、ペガソルタの体がショートする。 「ぬっ!私の体が…!」 「「終わりだ!」」 二人のチャージセイバーがペガソルタを叩き斬った。 「馬鹿な…!?こんな…私が人間風情に…!ヌオオオオッ!?」 「やった!後はあいつを…」 残るはハイボルトのみのために、エールがとどめを刺そうとハイボルトの方を向いた時には…。 「いない!?」 ハイボルトの姿はどこにもなかった。 「…上だっ!」 ヴァンが上空を見上げると、エネルギーを最大まで溜めているハイボルトの姿があった。 「消えろっ!!」 二人目掛けて発射される高出力レーザー。 地面に着弾するのと同時に大爆発を起こす。 「ふー、ふー…跡形もなく消し飛んだか…予想よりもダメージを受けたが…ガーディアンとは別の勢力がいることも分かった…早くこの事をセルパン様に伝えなくては……!?」 自分の真上に影がかかり、上を見上げるとヴァンとエールがそれぞれの武器を構えていた。 「終わりだハイボルト!」 「痛っ!?」 そしてヴァンはエールの頭を踏み台にして接近し、チャージセイバーの一撃を振り下ろしてハイボルトを真っ二つにする。 「ば、馬鹿な…翼を…飛行能力を持たない貴様らが何故、俺の真上を…!?」 「痛たた…答えはこれよ」 頭を擦りながらバスターを見せるエール。 ハイボルトのレーザーが着弾する直前にチャージバスターを真下に撃って、その勢いを利用してレーザーをかわしつつ、ハイボルトの真上を取ったのだ。 「ぐっ…だが…ここのエネルギーのほとんどは…既にセルパン様の元へ送られた…後は…セルパン様が…モデルV本体を発掘するだけだ…哀れなロックマン達よ…新たな世界で…裁きの雷に打たれるがいい…!セルパン様…新たなる…新世界を…っ!」 両断されたハイボルトはセルパンの理想の実現を願いながら大爆発を起こす。 「勝った…痛たた…ちょっとヴァン!女の子の頭を踏み台にするなんて酷いじゃない!」 「…………」 「ちょっと聞いてるのヴァン!?……ヴァン!?」 反応がないことにエールは怒って近寄るが、力なく倒れてしまったヴァンに慌てて駆け寄る。 「大丈夫だ。 どうやら気絶しているだけのようだ…」 「でも随分弱っているようだね、早くガーディアンベースに連れていかないと」 モデルZとモデルXの言葉に安堵すると、早くガーディアンベースへと連れていかねばとヴァンを支えながら立ち上がると、ハイボルトの残骸から一つの金属が姿を現した。 それはモデルXとモデルZに良く似た物だ。 「もしかして、あれ…ライブメタル?」 「…俺の名は風のライブメタル…モデルH。 ようやく自由になれた…英雄の力を受け継ぐ者よ…礼を言おう。 」 モデルHが名乗った瞬間に、モデルZとモデルXが変身を解除してモデルHの元へ向かう。 「モデルH、エールにお前の力を貸して欲しい」 「モデルVを持つセルパンの力に対抗するには、僕達も力を合わせて戦う必要があるんだ…モデルH、君も手伝ってくれないかい?」 「モデルX様のご命令ならば喜んで…しかし、その者に俺の力を貸し与えるのに相応しいのかどうか…エール…だったな?お前は何のために戦う?」 「え?」 モデルHの問いにエールはきょとんとするものの、自分が戦う理由を言う。 「それは、セルパンを倒してモデルVの復活を止めたい…そしてヴァンを狙う奴らからも助けてあげたい…」 気絶しているヴァンを見遣りながら言うエールに対して、モデルHはヴァンに僅かだけ視線を遣ると、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「それで…争いは終わるのか?全てはモデルVの力に魅入られた、一人の男が始めたことだ。 モデルVを破壊し、セルパンを止められたとして…人々が再び過ちを繰り返さないと言い切れるのか?」 「…………先のことは分からないよ。 でも、アタシはセルパン達からジルウェやヴァンやプレリー達、運び屋の仲間、そしてアタシが会ってきたみんなを守りたい!今、みんなを守れるのはアタシ達しかいないんだ!何もしないで後悔なんてしたくないから!!」 その問いにエールは少しだけ言葉を詰まらせるものの、自分の気持ちをモデルHにぶつける。 「………今…か、フッ…数百年前…俺達のオリジナルが守ろうとした人間達は、偽りの平和に飼い慣らされた抜け殻のような存在だった。 だが、お前とその仲間達のような者がいるのなら、俺達のオリジナルの戦いは無駄ではなかったらしい…勇気ある者よ、お前に力を貸そう。 セルパンは本体である俺と力の大半とパスコードを含めたデータを二つに分けて、もう一体のフォルスロイドを作り上げた。 そいつを倒せば、俺のパスコードをお前に託すことが出来るだろう」 そう言うとモデルHはエールの手に収まる。 「エール、モデルHは高い機動力を誇るライブメタルだよ。 彼と僕がダブルロックオンをすれば今まで行けなかった場所にも空中 エア ダッシュで行けるようになる。 ベースに戻ったら要練習だよ」 「うん、分かった。 さあ、ガーディアンベースへ戻ろっか…アタシも疲れたし…」 奥にあるトランスサーバーに向かうエールに気付かれないようにモデルHはモデルXに尋ねる。 「モデルX様…あの者は…」 モデルHの視線はヴァンに注がれていた。 「君も気付いたかい?モデルH?」 「ええ、俺に刻まれているオリジナルの過去のデータが確かならば…あの者は危険です。 」 「………でも、彼自身は善人だよ。 エールやジルウェを助けてくれた…僕は彼の優しさを信じたい。 彼なら必ず過去の呪いを乗り越えてくれることを…僕の適合者でもあるようだから僕も彼に力を貸すつもりだよ」 「………分かりました。 モデルX様がそう仰るのならば、俺も出来る限りのことはします」 「ありがとうモデルH」 「どうしたのー?早く来なよー」 モデルXとモデルHが遅いことに気付いたエールが呼ぶ。 二つのライブメタルもエールの元へ行くと、トランスサーバーでガーディアンベースに一時帰還した。

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東方忌避想

地面に叩き落としてやるぜ 対策

太陽が昇ってまだ間もないころ、まだ少し肌寒くもある早朝。 IS学園の部室棟、文化部用の部室から体育館、テニスコートにプールと幅広く揃っている。 その中には武道館という日本独特の格闘術を学ぶための場所もあった。 俺はその中の道場で、これまた日本独特の道着という衣装を見に纏っていた。 見た目に反して中々に動きやすいものだ。 「うーむ……この正座というのは慣れないな。 足が痺れる……」 「……別にそこまで俺に合わせてくれなくてもいいんだぜ?」 「まあ、せっかくの機会だ。 日本の文化というものを学ばせてもらおうじゃないか」 足の痺れを我慢して正座をする俺の横には、同じく道着を着て正座をする一夏。 剣道とやらをやっていたからか、さすがに正座には慣れているようだった。 「さて、じゃあ時間もあまりないことだし、早速始めようぜ」 「ああ、それなんだが……俺はお前に何を教えればいいんだ?」 まだ多くの人は眠りについているような朝早くに、一夏と道場で道着を着て何をするのかといえば……一夏から俺に訓練をつけてくれと、またも懇願されたからだ。 それならばISの訓練をすれば、と思うのだが、それをすると一夏の周りの少女たちが喧しいので、とりあえずここに来たのだ。 「何でもいい、レイが戦う時に気を付けていることとか、普段の心構えとか……とにかく何でもいい!」 「それはまた漠然としてるな……だったら別に俺じゃなくてもいいじゃないか。 それこそセシリアとか、凰鈴音とか……」 「俺は……お前に教えてもらいたいんだよ。 何たって千冬姉がレイのことを褒めてたんだから」 「俺を?」 「ああ、千冬姉は滅多に人を褒めたりしないんだぜ? そんな千冬姉がさ、レイのことを"あれだけの気迫をぶつけられたのは久しぶりだ。 あれは相当の訓練と死地をくぐり抜けた者でなければ出せない"って言ってたんだよ」 おお、あのブリュンヒルデがそんなことを……なんだか少しこそばゆい感じがするな。 しかし、それが俺に訓練をつけてほしいという理由か? 「レイも知っての通り、千冬姉はめちゃくちゃ強かっただろ? 俺も……そんな千冬姉の弟として恥じないよう、強くなりたいんだよ!」 「……あー分かった分かった、分かったからそう暑苦しくなるんじゃない。 ま、確かにあんな凄い人が姉だと、それだけでプレッシャーもかかるものな」 「それじゃあ……訓練してくれるのか?」 「そもそもする気なかったら、お前の誘いに乗ってここまで来ないよ」 「よっし! じゃあよろしく頼むぜ、先生!」 「せ、先生……?」 訓練をつけてもらえることが嬉しかったのか、よく分からないテンションになる一夏。 とはいえ、訓練といっても、俺は人に教えられるほどのものは納めちゃいない。 あくまで、戦闘における心構えなんかを、俺が教えられたことをそっくりそのまま話してやるぐらいだ。 「訓練、っていっても、教えてやれることはそんなにないぞ」 「そんなことないだろ。 レイが相当の訓練を積んでるっていうのは事実なんだろ? セシリアにだって模擬戦で勝ってたし。 俺はつい最近まではISなんてまるっきりの素人だったんだ、どんなことでも参考になる」 「ふむ、そういうもんか……じゃあ手始めに手合わせでもしてみるか」 とりあえず一夏に、道場のへりに立てかけてあった木刀を一本を持ってくるよう言う。 「ルールは単純、どちらかが参ったというまでな」 「これ木刀だけどいいのか? それにレイは木刀使わないのか?」 「……あったほうがいいか?」 一夏に言われて俺も木刀を手に持つ。 木刀、日本に古来から伝わるカタナという剣を象ったものらしい。 扱いとしては軍用マチェットみたいなものかな。 「よし、始めるとするか。 どっからでもかかってこい」 俺の合図に一夏は木刀を構えると、打って変わって真剣な表情へと変わる。 一夏は剣道とやらを学んでいたそうだが、今も箒に稽古をつけてもらっているらしい。 しかし、俺はこんな木刀でまともに打ち合う気なんて更々ない。 それに近接格闘ならナイフの方が好みだ。 「俺が怪我するかもとか、そんなことは考えるなよ。 遠慮するな」 「……分かった」 俺の一言に一夏はその気になったのか、木刀を握る手に力がこもる。 俺と一夏の間合いは三畳分、木刀で打ち込むにはある程度間合いを詰めなくちゃいけない。 さて、一夏はどう来るか。 「……はあっ!」 大きく踏み込みながらの上段。 なんとも潔い、真っ正面から突っ込んで来るとはな。 申し訳ないがそれは悪手の中の悪手だ。 俺は一夏の踏み込みと同じくらい、後ろに飛び退くと……量子化していた拳銃の"ハモンドP2016"をコールし、その銃口を一夏へと向ける。 いきなり銃口を突きつけられた一夏は、訳がわからないといった表情で、木刀を振り上げたまま硬直していた。 「お前が降参してくれなきゃ、引き金を引かなくちゃいけないんだが……どうする?」 「……ま、参った……ってそれは汚ねーだろ!」 やはり一夏は木刀での打ち合いを想定していたのか、いきなり銃を持ち出した俺に憤慨していた。 少々意地悪ではあるが、俺は木刀しか使わないとは言ってないので悪しからず。 まあ、これがまず俺が一夏に言っておきたいことなので、意地悪なことをしたのは許してくれ。 「まあ、悪かったって。 とりあえずだな、こいつを持ってみろ」 「へ? ……うわっ! そんなもの投げて寄越すなよ!」 俺は手に持っていた拳銃に安全装置をかけると、それを一夏に投げて渡す。 いきなり銃を渡された一夏は、初めて銃を触るのか、銃の重さに慌てていた。 「よし……いいか、今から言うことを想像してみろ。 俺が持ってるこの木刀は本物のカタナだ、よく切れるぞ。 そしてお前の持ってるその木刀もカタナだ。 しかもお前は銃まで持ってる。 そんなお前は、とんでもない剣術の使い手である俺と戦おうとしてる……」 「お、おお……」 「さあ、お前に剣の勝負で勝ち目はない。 お前はどうやって戦う?」 「えっと……銃?」 「そうだな、きっと誰もがそう言うだろうよ。 つまりはそういうことさ」 「……?」 顔を顰めて首をひねる一夏。 どうやら、いまいちピンときてないようだ。 「戦いに卑怯もクソもない、あるのはいかに効率よく相手を打ちのめすか、それだけだ。 相手が予想外の行動をしてきても、それに気づかなかった奴が悪い」 「そういう……ものなのか……?」 「まあ、今のは極端な例だ。 実戦じゃあそういうことはよくある。 ISでの戦闘も同じだ、量子化という便利な機能がそれを助長してる。 スナイパーライフルを持ってるが、近接装備も使えるかもしれない。 近接装備しかなさそうだが、ミサイルも撃てるかもしれない……何があるかなんて分からん」 「じゃあ、どうしたらいいんだ。 相手の行動が分からないままだったら、ずっと後手だ」 「そんなことないさ。 ……大事なのは観察することだ。 間合いの取り方、機動の癖、武器の扱い方、全部が重要な判断材料になる……っていうと小難しく聞こえるかもしれないが」 観察するっていうのは、見るじゃあなくて観る、聞くんじゃあなく聴く、ってことだ。 タイタン同士の戦いでも、相手の一挙一作が次の行動を予測する材料になる。 それがシールドの発動や回避のタイミングを推し量るのに必要になるんだ。 ISにはハイパーセンサーとか便利なものがある、一夏にだってできないことじゃない。 「セシリアだったら……あいつは背部スラスターを吹かして機体を安定させてから精密射撃を行う。 ビットを操作するときはスナイパーライフルによる狙撃はできない……とかそういった感じにだな、相手の行動が読めれば自分に有利なように立ち回れる。 そういうことを意識するだけで、動きは多少はよくなると思うぞ?」 「うーん……今はまだ機体を動かすのに精一杯で、そんなことを考える余裕がないんだが」 「そりゃ相手に合わせて動いてるからだろ、自分のペースで動かなきゃな。 苦し紛れの反撃ほど分かりやすい攻撃もないし、焦れば焦るほど動きは単調になるんだ」 ……といった感じに、俺の戦場での経験を基にした講義は一時間ほど続いた。 もちろん、話してるだけでなく、体を動かして実践も交えながらだ。 一夏は決して器用ではないが、それを補って余りある集中力があった。 その集中力が、戦闘でもいい方向に向いてくれればいいんだがな。 俺はミリシアにいた頃にフェデラル中尉やラスティモーサ大尉、アンダーソン少佐、6-4のゲイツたち、パイロットになる前ならマクアランと、沢山のパイロットたちに訓練をつけてもらったものだ。 俺が教えることは全て彼らからの受け売りだが、それは彼らが戦場の命のやり取りの中で学んだこと。 いつかはそういう場面に直面するであろう一夏にはきっと役に立つと思うのだ。 専用機持ちでない一般の学生には、学園が保有する第二世代機が割り当てられ、それを用いて授業を行うのだそうだ。 ちなみにこの授業はISスーツで授業を受けなければならない。 忘れたものは学園指定の水着で授業を受けるのだそうだ。 ……機会があれば一度見てみたいものだ。 そこで問題になるのが俺と一夏の男性組だ。 俺たちの使用が許されている更衣室はアリーナ付近の一箇所のみ。 だから、全力でダッシュして着替えに行かなくちゃならないそうだ。 一夏はいつもそれで苦労してるそうだが、俺は量子化されたスーツを呼び出すだけでいいので、特に問題はない。 一夏は俺への恨み言を叫びながら更衣室へとダッシュしていた。 だがこの授業、私には色々と問題がある。 私はパイロットの特殊なスーツを着ている、それがとてつもなく目立つのだ。 現に今、私はクラスの女子たちとアリーナの真ん中に整列させられているのだが…… (……見られてるなぁ、めちゃくちゃ視線を感じるぞ……) 俺は一夏と共に最前列に並ばさせられているが、後ろから沢山の視線が突き刺さるのが分かる。 というかスーツの機能で背後もモニタリングできるので、まじまじと見つめるクラスメイトたちが見える。 誰のかって? 勿論、鬼教師の織斑千冬だ。 「話を聞いているのか?」 「ごめん、千冬姉。 ちゃんと聞いっ……うわ、すみません織斑先生!」 うっかり姉付けで呼びそうになる一夏は、またしてもゲンコツを食らっていた。 そして、織斑千冬はボディブローに呻く俺の方へ向くと…… 「丁度いい、お前にはIS展開の手本を見せてもらおう……皆、よく見ておけ。 オルタネイトが教科書よりも参考になる手本を見せてくれる」 「ゲホッ……えっ……IS展開の?」 一夏と雑談をしていた罰か、何やら俺に白羽の矢がたったようだ。 IS展開……ああ、リーゼのシャーシを展開すればいいのかな。 「リーゼ、システムを……」 そこまで言いかけて、ふと周りを見渡せば、またもや俺に突き刺さる注目の視線。 なんとやり辛いことか……! 『パイロット?』 「あ、ああ……システムを戦闘モードに移行だ。 シャーシを展開してくれ」 『了解、機体をコールします』 何もない空間に光が集まり、それが大きな鉄の巨人へと変わる。 標準ロードアウトである"エクスペティション"を換装したリーゼが、地響きを立てながら、アリーナに降り立つ。 「おおー、すごい! フルスキンのIS……って言っていいのかな、あれ」 「もはやロボットだよね……」 ……等々、色んな感想が周りから飛び交う。 なんとでも言え、リーゼはそもそもISと呼んでいいのか微妙なところもあるからな。 「遅い、それにお前自身がISに搭乗していないではないか。 もう一度やり直せ」 しかし、織斑千冬は今の展開の仕方では納得してくれなかったようだ。 パイロットとタイタンが別々に行動することも鑑みて、ああいう風に展開するのが俺の中では主流になっていたのだが、普通のISは身に纏うように展開するのだったな。 『しかし、マスター織斑。 私とパイロットにとってはこれが最も効率的な展開方法です』 「なんだマスター織斑って……なにはともあれ、やり直せって言ってるんだから、やり直すぞ。 でも次はだな、こんな風に……ゴニョゴニョ……」 『……分かりました、ではそのように』 俺は周りに聞こえないようにリーゼに作戦を話すと、リーゼは早速準備に入る。 準備といっても、ロードアウトを"ノーススター"に切り替え、マニピュレータで俺を掴み上げるだけだが。 「……おい、何をする気だ?」 織斑千冬が当然の疑問を口にする。 まあ、機体の展開の手本を見せろって言ったのに、自分のISに掴み上げられてたらそう思うよな。 だが、これが俺たちにとっては、よくやっていた展開方法を再現するための行動なのだ。 そこでゆっくり鑑賞していてくれ。 「よし……いけ、リーゼ!」 俺の合図にリーゼは大きく体をしならせると……そのまま俺を真上に放り投げた。 だがそれもよそに、俺はジャンプキットで一時的に空中に浮遊し、リーゼはVTOLホバーを起動して空中で浮遊する俺へと飛び上がる。 そして、俺はリーゼにグラップリングフックを射出し、先端をリーゼのシャーシに引っ掛けて、モーターでワイヤーを巻き取る。 空中でリーゼに引き寄せられ空いた手でシャーシに触れると、そのままリーゼの機体を量子化し待機状態へと戻す。 「よし、リーゼ! もう一回機体を展開しろ!」 『了解、シャーシと共にドームシールドを展開します』 今度は俺が最初からリーゼに搭乗する形でシャーシを再展開し、それと同時に周囲にドームシールドが形成される。 重力に従って落下していくリーゼ、アリーナがそれなりに縦の奥行きがあるとはいえ、ドームシールドを纏ったリーゼはすぐにアリーナの地面に達した。 そして落下の衝撃に、アリーナの地面はドームシールドの形に軽くへこみ、地面を大きく揺るがすのだった。 「これぞタイタンフォール……なんちって」 ……なお、この後俺はやはり織斑千冬にこっ酷く折檻を受けることになる。 しかも、俺の後に飛行訓練の手本として、自身のISを纏って飛び上がった一夏もまた、上空から地面に凄まじい勢いで墜落してアリーナの地面を抉っていた。 俺と一夏は二人してアリーナの後片付けを命じられてしまい、その授業の後には、せっせと土を運んでは穴を埋め立てるタイタンとISの姿があったそうな。 時たまレーザーに入り混じってミサイルも飛んでくるし、セシリア自身もスナイパーライフルで狙撃を繰り出してくる。 ロードアウト"トーン"のパーティクルウォールでは一方向からしか防げない、どうしても全ての攻撃を防ぐことはできない。 しかし、セシリアも多量のビットを一度に操ってるからか、一つ一つの攻撃の精度は極めて低い。 (精度を下げてでも手数を増やしたのか……これは厄介!) ダッシュで躱すにも何発かが機体に命中し、レーザーの熱量にシールドが抵抗する。 その怯んだ隙を待っていたと言わんばかりに、セシリアのスナイパーライフルの狙いが、すでに定められていた。 「貰いましたわ!」 『やばっ……リーゼ! ロードアウトを"イオン"に換装しろ!』 『了解、専用シャーシを展開します』 リーゼがトーンと同じく中量級タイタンであるイオンのシャーシへと高速で切り替わり、スナイパーライフルを構えるセシリアへと左手をかざす。 ロードアウト"イオン"と"エクスペティション"に装備されているヴォーテックスシールド、どちらかといえば実弾兵器に有効なのだが、束の改造で光学兵器もある程度は防げるようになっている。 セシリアのスナイパーライフルから放たれた閃光、それはリーゼのヴォーテックスシールドに防がれる……が、代わりに背後のビットから放たれたミサイルが、リーゼの背部に命中し爆ぜる。 『くそっ……リーゼ、レーザーショットでビットを狙え。 俺はセシリアを牽制する』 『目標確認。 レーザーショット、チャージ開始』 ロードアウト"イオン"の背部ユニット、レーザーショットが展開し、エネルギーチャージが始まる。 その間、俺は手に持つオート式エネルギーライフルの"スプリッターライフル"で、エネルギー弾の弾幕を張る。 セシリアはビットを細かく操るときは、どうしても集中が必要なのか動きを止める必要があった。 しかし、今回のセシリアは俺の予測を超えてきた。 「此間と同じとは思わないでくださいまし……!」 高機動でスプリッターライフルを躱すセシリア、しかし、その間も展開したビットはなお複雑な動きを続けていた。 放たれるレーザーは命中精度もへったくれもなかったが、それでも俺の動きを抑制するには十分だった。 『対象ロック……照射』 リーゼのチャージショットがビットの一つを撃ち抜く。 だが、一機落としただけではダメだ。 俺もまずはビットをなんとかすべきか……! 『やるじゃないか、ビットと機体制御を同時にこなせるようになってるとは……!』 「私は国家代表候補生ですのよ、侮らないでほしいですわ!」 スプリッターライフルを、3wayショットに切り替えてビットを狙う。 だが、ロードアウト"イオン"の特徴として、その兵装の全てがエネルギー兵器。 使用には必ずエネルギーの消費が伴う、だから、そう多用もできないのだ。 『しょうがない……作戦変更だ、リーゼ! ロードアウトを"リージョン"に変更しろ!」 『了解……!』 ビットから放たれるレーザー、しかし、それをリーゼの装甲の上に更に展開した追加装甲に弾かれる。 中量級タイタンのシャーシから重量級のそれへと切り替わったリーゼの手には、巨大なガトリングガン、"プレデターキャノン"が展開する。 「くっ……いくら弾幕を張っても当たりませんわ!」 プレデターキャノンの弾幕を高機動で躱すセシリア、俺はビットの攻撃を躱すこともせずに、ひたすらに弾幕を張り続ける。 それはパワーショットと呼ばれる特殊な射撃モード。 僅かなチャージの後放たれる強力な射撃、遠距離の相手ですら撃ち抜く驚異的な貫通力を生み出すのだ。 『落っこちろ……!』 チャージが始まり銃身が赤く赤熱するプレデターキャノン、そこから放たれた一撃は、空中を飛び回っていたセシリアの背部、飛行ユニットの片翼に命中した。 軽量級タイタンであるロードアウト"ノーススター"に換装したリーゼは一気に身軽になり、背部の"VTOLホバー"を起動させ空中に飛び上がる。 さっきとは打って変わって、今度は俺が上でセシリアが下。 俺は上からクラスターミサイルを撃ち込み……それを躱すであろうセシリアの動きを予見し、そこにテザートラップを投げて配置する。 『フライトコア、オンライン!』 VTOLホバーで空中に浮かび上がったまま、背部の二つのミサイルラックが起動し、そこから大量のクラスターミサイルを吐き出す。 デザートラップに動きを拘束されているセシリアにそれが躱せるはずもなく、セシリアはクラスターミサイルの爆発に飲み込まれる……はずだったのだが、セシリアは咄嗟に手に持つスナイパーライフルを構えたのだ。 『……っ!』 フライトコアの発動中は機動に制限がかかる。 だから、俺はセシリアの最後の狙撃を躱せず、放たれた一筋の閃光がリーゼの胴体を穿いた。 その一撃がセシリアの最後のあがきだったらしく、セシリアは悔しそうな表情のまま、クラスターミサイルの爆発に飲み込まれていった。 セシリアはシャワーを浴びに行ったまま、まだ戻ってきていない。 今回の模擬戦、やはりセシリアから対戦を申し込まれたのだが、実はこれで4回目だ。 どうやら俺に負けたのが相当悔しかったらしく、最初に負けた日から、俺を打倒するために猛特訓してるのだとか。 「目標にされるのはいいんだが……一夏にセシリアと、相手をしていて中々に疲れるんだよな。 なあ、リーゼ」 『私は対IS戦のデータを収集できるため、非常に有意義です。 パイロット、貴方も対IS戦の戦闘効率評価が著しく上昇しています。 これはいい傾向です』 若者の体力にはついていけないぜ……と言ってみるが、彼らの相手をするのは面白いのだ。 しかし、セシリアは順調に俺の対策を積んできている。 そろそろロードアウトを全て見せてしまうことになる。 「リーゼ、後でブルー・ティアーズ対策のオペレーションでも組むか」 『了解、これまでの戦闘記録をアーカイブに保存します』 さて、どうしようか。 セシリアには先に帰っても構わないと言われたのだが……ま、お言葉に甘えさせてもらおうか。 (この時間なら……部屋に本音は生徒会室にいるはず。 今のうちにサラから貰ったシュークリームを食べよう……じゅる) 『パイロット、次のおやつはそのキャンディを食べてからです』 「お母さんかお前はっ!」 リーゼにツッコミを入れつつ、ピットの更衣室を後にする。 すると……アリーナの外に、ある見知った少女が、これまた沈んだ表情で歩いていた。 「あいつは……凰鈴音、だったか? 物凄い暗い顔してるな」 ゾンビのようにフラフラと体を揺らしていた凰鈴音は、近くの休憩室の椅子に座り込むと、盛大にため息をついていた。 何があったのかは知らないが、随分と深刻な落ち込み具合だな。 見ててこっちが心配になってくる。 「なあ……大丈夫か?」 俯いていた凰鈴音は少しだけ顔を上げてこちらを見ると、一言こう言い放った。 「誰よ、あんた」 「おいコラ……一応はお互い名乗ったろうが」 たしかに前はスーツのヘルメットを被ったままだったけど、それでも声とかで分かるだろ。 というか、この学園には男は二人しかいないんだからさ。 「お前と同じクラスのサラ・オルタネイトの兄の……レイ・オルタネイトだよ」 「ああ……あのよく分かんない格好してた奴ね」 くっ……いちいち歯に衣着せない奴だな。 取り繕わないという意味ではいいのかもしれないが、あまり思ったことをずけずけと言ってると、面倒な揉め事を起こすぞ。 「何の用? 今は放っておいて欲しいんだけど……」 「周りにキノコが生えそうなくらいに陰湿な雰囲気だったものだから……何があった? いや、待てよ。 何があったか俺が当ててやろう」 華の十代乙女なお前らがそこまで一憂するくらいなんだ、きっとその原因は……恋! つまり一夏絡みだな。 凰鈴音は一夏の幼地味、きっと昔の出来事で揉めたに違いない。 大きくなったらまた会おう! とかそんな感じの約束をしていたに違いない。 羨ましい奴め! 「そうだな……恐らく、昔に一夏と約束したことを、一夏がすっかり忘れてしまっていた。 或いは歪曲して覚えていて、それについてお前は一夏と喧嘩をしてしまった、といったところか……どうだ?」 「……」 「えっ……まさか正解とか言わないよな」 黙ったまま否定も肯定もしない凰鈴音、だか少しバツが悪そうな顔をしていた。 マジかお前ら、本当にラブコメみたいなことしてるな。 「喧嘩はしてないわ……あたしが一方的に怒鳴り散らしただけよ。 でもあいつが悪いのよ! 私の告白を……そのまんま文字通りに覚えるなんて……」 「俺よりお前の方が一夏との付き合いは長いと思うんだがな……あいつ、相当の鈍感野郎だろ。 だったらその気持ちを素直に伝えてやればいいのに、と思うのだが、そう簡単にいかないのが思春期というものなんだろう。 しかも、こいつは勝気な性格が邪魔をして、まったく素直になれないときた。 難儀なものだな。 「騒がしいと思えば……何をしてるのですか?」 俺と凰鈴音の馬鹿騒ぎを聞きつけてやって来たのは、シャワーから帰ってきたセシリアだった。 どうやら凰鈴音にはいい印象を抱いていないようで、俺が凰鈴音と話しているのを見て少し嫌そうな顔をしていた。 「おお、お疲れさん。 今回はかなり危なかった、次あたりは負かされるかもな」 「嘘仰らないで、まだ見せてない手の内があるでしょう?」 「まあな。 だが、それも残すところ僅かだ」 初戦はトーンだけだったが、二戦目はノーススターも使った。 三戦目はリージョンを……そして今回はイオンを使った。 既に四つのロードアウトを見せたわけだ。 エクスペティションは標準装備だから外すとしても、残りはローニン、スコーチ、ブルートの三つだ。 (対策を立てないと、手の内を全部見せる事になってしまうな……別に構わないといえば構わないのだが) 「なに、あんたこいつに負けたの?」 「な、何か文句でもありますの?」 「代表候補生を名乗るくせに、最近転入してきたばかりの男に負けたんだ」 「か、彼の実力を舐めてはいけませんわ! あの織斑先生が一目置くほどですのよ!」 「そりゃどうも」 「こいつが? ふーん……そんな風には見えないけど」 「だったら貴女も戦ってみるといいですわ、決して嘘は言ってないことが分かりますわよ」 「いや、俺はもう部屋に帰りたいんだけど……」 セシリアと凰鈴音は相性でも悪いのか、ああだこうだと言い合いを始めてしまった。 俺はもう蚊帳の外だ。 しかし、途中から論点は一夏へと移っていた。 やれ幼地味だとか一目惚れだとか、あいつがいかにモテるかよく分かるな、ホント。 「幼馴染なんて関係ありませんわ! 私にとっても一夏さんは……その……」 「そんなのあたしには関係ないっての! ……なによ、無駄にでかいだけのくせに……」 「……何か言いましたか?」 「なんでもないわよっ!」 「……もうお前らだけで勝手にやってくれ……」 俺は舐め終わったキャンディの棒を指で弾いてゴミ箱に投げ捨てると、新しいキャンディを取り出し、それを口に咥えながら自室へと足を向ける。 俺はこれからシュークリームをゆっくりと味わわなくちゃいけないんだよ。 その後でゆっくり対策オペレーションでも練るとしよう。 (ついでだ、過去の作戦ログのシュミレートもしておこう。 対一だけでなく、対多数の時の感覚も養っておかなくちゃな) 口の中で転がすハッカキャンディ、スッキリする甘さだがそれがクセになる。 禁煙、禁酒のために楯無から貰ったキャンディだったが、それ以前に味が気に入ってしまったのだ。 タバコと酒、許可が出るなら、今すぐにでも一杯行きたいとこだ。 今更ながら、そこらへんもシュミレートできるよう束にお願いしておけばよかったと後悔するのだった。

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【ポケモンGO】ジェネレーションチャレンジシンオウでのみんなの詰みポイント

地面に叩き落としてやるぜ 対策

走り続け、どれぐらい経ったのだろうか。 ずっと動かし続けていた足を、翼を止め、フレンズ達はただじっと、前を見据えた。 「これが…ゆうえんち…」 かばんを背中から下ろしてやりながら、サーバルは眼前のセルリアンの根城となった区画を眺めた。 吹き荒れるサンドスター・ロウが黒雲のように包み込んでいるその根城は、高い塀に囲まれている上サンドスター・ロウのせいで視界も悪く、内部の様子が外からではわからない。 辛うじて確認できるのはサンドスター・ロウの嵐の中でも微動だにしない、大きな、大きな観覧車のシルエットのみ。 異様な不気味さが、黒いサンドスターと共に渦巻いていた。 「敵の本拠地の前で無防備に突っ立っているのは良くないのです。 どこかで身を潜めつつ、山組の作戦成功を待つのです」 博士が皆に呼びかける。 かばんも無言で頷いた。 周囲にセルリアンの姿がないのは救いだった。 遊園地の内部に集まっているのだろう。 ツチノコとタイリクオオカミの力で無益な戦闘を避けることができたため、比較的スムーズに目的地に到着することが出来た。 「でも…どこに行きゃあいいのさ…。 この辺の地形には詳しくないから…隠れられる場所なんてわかんないよ…」 長距離の疾走に不慣れなライオンは、息を荒げて膝に手をついている。 「…危険な戦いですから…しかたないです」 鞄の肩紐を握って小さく俯くかばん。 その鞄の中からピョンと飛び出したボスが、マカセテ、と声を上げた。 『コッチ、コッチ』 飛び跳ねながら近くの林へと一直線に向かうボス。 その後を、皆は首をかしげつつ追いかけた。 … 『ココダヨ、ココダヨ』 林に入ってさほど歩かない内に、ボスが立ち止まって皆を振り返った。 そんな彼の前には、キヅタなどのつる植物が壁に纏わり付き、自然の力でカモフラージュされた建物があった。 一見すると林の植物と一体化してわかりづらいが、わりと広そうだ。 「これは…?」 扉の取っ手へと手を伸ばしながら、かばんはボスに尋ねる。 『昔パークニイタヒト達ガ使ッテイタ、管理小屋ノ一ツダヨ。 ココカラナラ安全ニ遊園地ノ様子ガ監視デキルヨ。 『ミンナ、ココニ集マッテル』 中にはすでに、先客がいた。 「あっ!?かばんにヘラジカ様!」 「大将!」 「おぉ!お前達!」 「来てたのかー!」 頭領達との再会を果たし、歓喜の声をあげるへいげんちほーの一同と。 「かばん!無事でなによりだよ!」 「やっほーかばーん!」 混沌のじゃんぐるちほーから何とか脱出したジャガーとカワウソの二人だった。 『各地ノラッキービーストニ、コノ小屋ニ案内スルヨウ伝エテイタンダ』 ボスのもとへ、じゃんぐるちほーとへいげんちほーからフレンズ達をガイドしてきたラッキービースト達が集まってくる。 「皆さん…ありがとうございます!」 「危ない戦いだってわかってても、パークやかばんちゃんのためならみんな集まってくれるよ」 思わず顔がほころぶかばんの隣で、サーバルもにっこりと笑った。 … そんな感動的な再会を果たす者達も居れば、最悪の対面を迎える者達も居る。 「グオォッ!!」 空中で拘束されて吼える先輩の変わり果てた姿に、リカオンは構えることも忘れてただ空を見上げる。 「趣味が悪い…セルリアンですね…」 『ア、ア、アワワワ…』 肉の盾にするつもりか、人質のつもりか。 どちらにせよたちが悪すぎる。 沸き上がってきた怒りに身を任せ、リカオンは牙と共に戦意を剥き出しにした。 「今すぐ地上に叩き落としてやる…!」 固まるボス2号を地面に下ろし、サンドスターが溢れる拳を構える。 そんな彼女を見たセルリアンは、その大きな瞳を再び紅く光らせると。 あろう事か。 拘束していたヒグマを手放し、地上へと落下させた。 「な…」 ドサッと四つん這いで不格好に着地したヒグマは、不愉快そうに呻って立ち上がると、がむしゃらに熊手を振り上げてふわふわ浮かぶセルリアンを威嚇する。 しかし熊手が届かない絶妙な高さで、セルリアンは嘲笑うかのように触手を風に揺らしていた。 「ゴフーッ!」 怒りさめやらぬ様子のヒグマは、それでも手が届かない相手にはどうしようもないと判断したようで。 では、この苛立ちをどうすれば良いのか。 その矛先を向ける相手は、すぐに見つかった。 「…ゴルルルル…」 肌を刺すような戦意を剥き出しにしている一匹のけものが、目の前にいるではないか。 肉の盾よりも、人質よりも。 もっとたちが悪い。 「趣味が悪いにも…程があるっ…!!」 このセルリアンは、自分と戦わせるためにヒグマを拉致してきたのだ。 無理矢理拘束され、連れ回されたヒグマは、完全に興奮状態で。 戦うしかない。 …大事な、憧れの、最強の先輩相手に。 「ガフーッ…グルル…」 「…ふーっ…」 荒々しい呼吸を牙の間から漏らすヒグマを正面に捉えたまま、リカオンは細く長い息を吐く。 腰を覆う毛皮の袋状になっている部分へ、そっと手を伸ばす。 そこに入れたアライグマ特製の首輪の存在を、毛皮の上から確かめた。 大丈夫。 自分にはこれがある。 ライオンの時と同じだ。 倒せなくても良い。 危険なのは、あの鋭利な爪で破壊力のある一撃を繰り出してくる、あの熊手。 一瞬でも隙をつくり、あの熊手を封じることができれば、自分の勝ちだ。 それにこれまでハンターの修行で、ヒグマとは何度も手合わせをしてきた。 落ち着け、大丈夫だ、やれる。 (…やらなきゃ、山頂の二人も…遊園地で待つみんなも…) グッと拳を握りしめる。 熊手を持つヒグマの手にも、ギリッと力がこもった。 『…ア』 足下で固まっていたボス2号が、ふいに我に返って耳と尻尾をぴくんと動かす。 「ゴアアッ!!」 それを見たヒグマが、先に動いた。 熊手を振り回し、吼える。 リカオンは急いで2号を両手で抱え上げると、少々乱暴だがそのまま少し離れた茂みに向かって放り投げた。 「ボスは隠れてて!」 「ガアアアアッ!!」 ヒグマが熊手を構える。 リカオンは冷静にその姿を見つめ、あの爪が振るわれるタイミング、場所を読む。 「…っ!」 ごう、と顔に向かって地面から掬い上げるように薙がれた爪を、リカオンは身を捻って回避した。 ヒグマの攻撃は止まらない。 振るい終わったその熊手を、今度は思い切り頭上から振り下ろす。 リカオンは身を捻った姿勢のまま地面に手をつき、足を蹴り上げる。 側転だ。 身軽な動作で距離を取った彼女が一瞬前まで居たところに、爪が恐ろしい勢いで打ち付けられた。 「うぅ…」 容赦の無い猛攻に、思わずゴクリと生唾を飲む。 修行の時のヒグマも、もちろん強かった。 正直何度か本気でかかっていったこともあったが、見事なまでにいなされた。 しかし、自分に傷を負わせるようなことはしなかった。 元々の素質に加え、セルリアンハンターとしての経験と技術を積んだヒグマは、ただ弱い相手を叩きのめすだけでなく、決して傷つけない優しさも持ち合わせていた。 厳しい言動も多かったけれど、やはり仲間思いの良きリーダーなのだ。 「ゴルルル…!」 今のヒグマは、完全にただ怒れる野生のヒグマだ。 冷静さを欠いた瞳を野生暴走に燃やすその姿を見るのだけでも辛かった。 「ヒグマさん…」 早く、目を覚ましてほしい。 リカオンは震える拳をきつく握り込むと、一気に駆けた。 ヒグマが反応するよりも早く、背後に素早く回り込む。 「っりゃあ!!」 真っ直ぐな殴打を一撃。 脇腹に打ち込む。 元の獣の体だと、皮膚の硬さに到底効き目もないだろうが、フレンズの体には通用する。 息を詰まらせるヒグマの様子を確認し、さらにワン・ツー。 十分な手応えを得たリカオンは、即座にヒグマから距離を取った。 苛立ったヒグマが横薙ぎに払った熊手は、リカオンに掠めることもなく空を切る。 (大丈夫、相手はただの…獣だ…!) リカオンはさらにヒグマから距離を取り、十分離れてから呼吸を整える。 野生暴走したヒグマの容赦のない攻撃とパワーは恐ろしい。 だが、その代償に彼女はハンターとしての技術を完全に忘れた獣に成り果てている。 フレンズの自分には、それがある。 目の前の彼女から教えてもらった技術が。 (落ち着け…この調子ならいける…。 相手の行動を見て次の手を考えるんだ) ゆらり、とヒグマがリカオンを振り返る。 極度の緊迫感から乱れる呼吸を、急いで立て直すリカオン。 一撃が重いヒグマは動作も鈍い。 自分は一撃の力は劣るが身軽さで上回っている。 こうやって距離を取って、動きを冷静に分析すれば、確実だ。 ヒグマが動く。 ゆっくりと身をかがめ、足の筋肉に力を込める。 (来るぞ…) 待ち構えるリカオン。 相手が距離を詰めるまでに攻撃を読んで、反撃の方法を考えるのだ。 「ガアアッ!!!」 ドッ、とヒグマが大地を蹴った。 そして。 「え」 先刻バスにはじき飛ばされたセルリアンに感情があったとするなら、きっと自分と同じ思いを持っていただろう。 リカオンが目を見はる間もなく、ヒグマは彼女を熊手の間合いに捉え。 血走った目が、獲物の顔を間近で眺めた。 「しまっ…」 大きな衝撃と同時に、リカオンの視界は暗転した。 … 「えっと…北があっちだからー…たぶんこの地図?に印をつけたところはあの辺だねー」 「おぉー!了解なのだ!あっちはアライさんが探すのだ!」 「じゃあ私はこの辺を探すよー」 かばんに目印をつけてもらった地図を頼りに、山頂の二人は地中に眠るお宝の場所の目星をつけて掘り出す作業を始めていた。 「フェネックはすごいのだ!アライさんだけだったら、この地図をうまく使えなかったのだ!」 「いやーすごいのはアライさんだよー。 ホントすごい執念だよねー」 がりがりと硬い土を掘り進めながら、二人は会話を続ける。 「まさかホントにお宝にたどり着いちゃうとは思わなかったよー。 しかもそのお宝が、パークの危機を救うかもしれないなんてさー。 アライさんはやっぱり持ってるよー」 これだからアライグマに付き合うのは面白い。 フェネックはくつくつと小さく笑った。 「へ?アライさん、何も手に持ってないのだ」 「…まーまーそんなことより早く探そーよ。 あ、一つ見つけたよー」 「何いぃ!?フェネック早すぎなのだ!アライさん、もう指先が痛いのだ!」 「私は穴掘りが得意だからねー。 アライさんがんばれー」 ぎゃいぎゃいと文句を言いながらも手を動かすアライグマを尻目に、フェネックは恐らくお目当ての物であると思われる、不思議な物体を手に取って土を払う。 見たことのない材質で出来たその薄いものは、中心にぼんやりと何かの模様が光っている。 「アライさんこんなヤツだよー。 今度はあっちの方探すからねー」 「任せるのだ!リカオンが戻ってくるまでに、四つとも全部揃えて自慢してやるのだ!」 鼻息を荒げて土をかき分けるアライグマから、フェネックは視線を山の麓へと下ろした。 セルリアンを追ってこの斜面を駆け下りていったリカオンは、未だに戻ってくる様子がない。 山頂の異様な静けさが、かえって不安を煽る。 その不安を相方に悟られないように、フェネックは穴掘りに集中するのだった。 … 「はぁー…ヒグマさんの修行は毎回キツいですよぉ…」 「ふふっお疲れ様です」 いつものようにみっちりしごかれ、座り込んで不満を漏らす自分に、もう一人の良き先輩、キンシコウが微笑みかける。 「第一、私は一対一での戦いは苦手なんですよ?仲間との連携や、追跡は得意ですけど…」 キンシコウが差し出してくれたじゃぱりまんを頬ばるものの、不平は止まらない。 「苦手だからといって、できないままではあなたが困るからですよ。 ヒグマさんなりの優しさなんです」 立ったまま背中を木に預け、キンシコウは優しい目で見下ろしてきた。 「私だって、元々戦うのはそんなに得意じゃないですし。 でも、ハンターになったからにはみんなを守るために頑張らないといけないでしょう?」 「それは…そうですけど…」 じゃぱりまんを口に運ぶ手が止まる。 「ヒグマさん、いつも私達のこと考えて修行のメニューも考えてくれてるんです。 あなたが連携で力を発揮できることは、充分理解していると思いますよ」 キンシコウが、尻尾で器用に頭を撫でてくる。 「だからこそ、一対一での戦いを鍛えてくれているんです。 私とヒグマさんに万一のことがあったときに、あなたが一人でもしっかり戦えるように」 「そう…ですね…」 ぶつくさと文句を言っていた自分が、急に恥ずかしくなる。 じゃぱりまんを無理矢理口に押し込んで、立ち上がった。 「まぁ、ヒグマさんとキンシコウさんが負けちゃうことなんてないでしょうけどね!」 「ふふふ…そう言ってくれるのは嬉しいわ」 気恥ずかしさをごまかすために、あーあとわざとらしく溜息をつく。 「でもせめて一回ぐらいはヒグマさんをぎゃふんと言わせてみたいなぁ…。 キンシコウさん、なにかヒグマさんの弱点とか知らないんですかー?」 「えぇ…?弱点、ですか…」 真面目なキンシコウはこんな質問に対しても真剣に考えてくれる。 でもきっと彼女のことだから、しっかり対策を考えているというか…簡単にはいかないと思いますよ?」 「わ、わかってますって!ちょっとした、参考までに…ね?」 耳打ちをせかすように、頭をキンシコウの方へ傾ける。 良いのかな…なんて呟きつつも、頼み事は断れないキンシコウは、こっそりと小声で教えてくれた。 背中に固い木の幹を感じ、リカオンは自分が吹き飛ばされて、この木に叩きつけられたのだとようやく気付いた。 気を抜くと意識がまた途切れそうで、ぼやけた視界をなんとか動かし、ヒグマの姿を探す。 「ゴフーッ!ガオォ!」 どうやらヒグマは、自分を捕食しようとは思っていなかったようで。 動かなくなった敵に興味を失った彼女は、やはり空中に漂うセルリアンが気になるらしく、必死で熊手を振り上げていた。 まだ、終わっていない。 やらなきゃ。 痛いような眠いような、熱いような冷たいような。 混濁する意識の中で、体を動かそうとしたリカオンは、ふと脇腹の違和感に気付く。 何気なく、そこへ手を伸ばし、触れる。 湿った感触。 (あぁ…) その掌を、顔の前へと動かして、開いてみる。 全体が、真っ赤に濡れていた。 「やっちゃったなぁ…」 どうしようもない絶望的な光景を目にしてしまうと、苦笑いが溢れてしまうことを初めて知った。 ヒグマの突進からの一撃を、咄嗟に回避しようとしたものの、少し間に合わなかったらしい。 認識すると途端に痛みが押し寄せてくる。 「うっ…」 頭を動かし、自分の傷を分析する。 直撃はギリギリ避けられたようだが、掠めただけでこの傷だ。 深くはないが、大きい。 どうやら爪の手応えに満足がいかなかったヒグマは、そのまま自分を体当たりで吹き飛ばしたようだ。 爪がまともに直撃していたら、脇腹をごっそりもっていかれるどころじゃすまなかったかもしれない。 ダメージは大きいもののフレンズの体は丈夫だ。 まだ動ける。 動けるが。 (これじゃあ…もう…) 逃げても、戦っても、結末は同じ。 いずれ自分は、自分じゃなくなってしまう。 『…』 てこてこと、茂みに身を潜めていたボス2号が歩み寄ってきた。 動かないリカオンの傷を確認した2号は、ぼんやりと目を光らせる。 『逃ゲルンダ、リカオン。 想定外ノ状況デ君ハヨクガンバッタ。 ケド、作戦ハ中止ダヨ。 カバン達ニ連絡ヲトッテアゲル。 山頂ノ二人ニモボクガコッチノ状況ヲ伝エニイクヨ』 ピロピロと音を立て始めた2号の耳の間に手を置き、リカオンは通信を制した。 「ちょっと待ってくださいよ、ボス…。 そんなことしたら、みんなそれぞれの作戦に…集中できなくなっちゃうじゃないですか…」 かばんは元凶の黒い自分との対面を控えている。 余計な心配をかけるわけにはいかない。 アライグマとフェネックは、きっと今頑張って四神を探してくれている。 その手を止めるわけにはいかない。 サンドスター・ロウを止め、ベストの状態で遊園地組を敵地へ送り出すためには、ここで諦めるわけにはいかない。 「それに逃げても…無駄ですしね…」 『ア…』 リカオンは2号から手を離す。 蒼い綺麗な体に、紅い手形が残ってしまった。 その手で首輪を毛皮から取り出すと、自分の腕に巻き付けた。 少しでも、暴走を遅らせるために。 「…ぐっ」 木に背中を預けたまま、無理矢理立ち上がる。 自分が動いたことに反応したヒグマが、セルリアンに向けていた熊手を止めてぎろりとこちらを見やった。 終わるまでに、終わらせればいい。

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