#だかいち #抱かれたい男1位に脅されています。 クロノスタシス
あ、寝てる…… 「チュン太？寝てるか？」 珍しく寝入っているチュン太を何度呼んでも返事はなかった。 まぁたまにはいいかと思うけれど構ってもらえないのは少々つまらない。 眠っているチュン太の腹に馬乗りになって、上から様子を伺うけれどなんら反応はない。 いくら細いと言っても男なんだし、そんなに軽いわけでもない俺の体。 寝てるから重くないのか？いや、寝てようが起きてようが重たくなんてないのかもしれない。 チュン太は腕を頭のうしろで組んで枕にしていて、白いTシャツから覗く筋肉と腕に浮き出る血管に男らしいなと今更ながらに思った。 それにこの腕にいつも抱かれていると思うと恥ずかしくなる。 深い襟ぐりのせいで見える喉元から鎖骨へのラインに手を伸ばして触ってみる。 ピクッと喉仏が動いて驚いたけどそれでも起きた様子はない。 悪戯はエスカレートして、寝ているチュン太の頬に軽くキスを落とした。 それでも反応がないのが何となく面白くなくて、いつも俺をドロドロに蕩けさせる唇を親指でフニフニとなぞってみる。 そんなに疲れていたんだろうかとこのところのチュン太のスケジュールを思い出してみたけれど、忙しいのは当たり前なうえに俺の世話も焼いているのだからそりゃ疲れるのも無理はないと思った。 静かに眠っているチュン太をまじまじと見つめてみる。 整った顔立ちは寝ていても崩れることはないんだな、そんなことを考えて少しだけ悔しい気持ちになる。 俺だって顔には自信はある。 寝顔の写真だって何度も撮られているけれど、我ながら綺麗な寝顔をしていると思う。 それでもチュン太には敵わないような気がして、負け惜しみで今だけは自分が優位に立っていると、卑怯なキスで唇を塞いだ。 寝ているときはこんなに可愛いのにと、硬いけれどふわふわしている髪を梳いてみる。 他人がいるときにはちょっとだけ作り笑顔が多くなって、わざとみたいにキラキラの笑顔でみんなを魅了する。 なのにふたりのときはとびきり優しくて俺にだけ甘い本当の笑顔になる。 「そういうとこ、好き、だな。 」 今すごく恥ずかしいこと言ったような……あまり普段は好きとか言えないから、チュン太が眠っているからとつい口に出てしまった。 チュン太の顔を見ているとふたりきりのときの笑顔を思い出して、自分がチュン太の特別なんだと自惚れていることに気付いてしまった。 それが妙にいやらしい気がして、しかもよく考えればこの体勢もいやらしい気がして、急に我に返って恥ずかしくなる。 ここに誰もいやしないことは分かり切っているのに、恐る恐る周りを見渡してみる。 静かな部屋にはもちろん誰もいなくて、ふたりを遮るものも何もなくて、急に胸がドキドキと躍り出した。 早鐘を打つ心臓の音がチュン太に聞こえてしまいそうな気がして、ゆっくりチュン太の上から降りようとした。 したのに、なんで。 「そういうとこって、どういうとこですか？」 やられた。 チュン太は本当に寝ているのかタヌキ寝入りしているのか分からないことが多いのを知っていたのに、寝ていると思い込んで調子に乗ってしまった。 チュン太が他人には見せない蕩けた顔で笑うから、また恥ずかしいことしてしまったと顔が熱くなる。 でもこんな風に俺を見るチュン太のことが好きだなと改めて思う。 腰に腕を回してがっちり固定されてしまって降りようにも降りられない。 チュン太はニヤニヤ笑って教えてくださいなんて言うけど、こんな恥ずかしいこと言えるはずもない。 「タヌキ寝入りしやがって。 起きてんならそう言えよ。 」 腰を掴む手を解こうと藻掻いてみるけれど、そんなことをさせてくれるチュン太ではないのは分かっている。 「高人さんが色々してくれるので、次は何してくれるのかなって楽しみにしてました。 」 「バ、バカ。 何もしねぇよ。 」 「そうですか？触ったじゃないですか。 こんな風に……」 手首を掴まれて、さっきそうしていたように喉元から鎖骨に手を滑らせる。 チュン太の大きな手に包まれて自分の手がチュン太の体に触れているのは、なんだかすごくいけないことをさせられているようで腹の奥がきゅうと疼いた。 [newpage] それを見透かしたように掴まれた手をグンと引き寄せられて唇を掠めるだけのキスをされた。 体を元の体勢に戻されて、指で俺の唇をなぞった。 全部起きていたから分かってるんだとでも言いたげな行為にますます顔が熱くなる。 チュン太はえへへと楽しそうに笑っている。 その顔も俺にしか見せない素顔。 その目に見つめられると、時計が止まったみたいに周りの空気が本当にゆっくりと流れていくような気がする。 「ところでそういうとこってどういうとこか教えてください。 」 「だから…えっと…顔？」 「俺が聞いてるんですけど。 でも、顔ですか？」 不満そうに溜息を吐くチュン太は上半身を起こして俺を膝に乗せ直した。 正面から間近に見つめられて動けなくなってしまう。 だって俺はその目に惚れたんだ。 真っすぐな時も獣みたいな時も、いつも俺だけに見せるその目が好きだ。 恥ずかしくて目を反らしてしまうけれど、やっぱり見ていたくて目線を戻す。 ほら、やっぱり時間が止まっているみたいに感じる。 ずっとこうしていたいと思うようなチュン太との時間。 不服そうに唇を尖らせて腰に回した手を尻の方に滑らせて撫でるように擦ってくる。 「本当のこと言ってください。 」 「嘘じゃ、ないから。 お前の、チュン太の顔が好きだ。 だって……ふたりでいるときだけ、くだけた顔になるから。 」 びっくりして照れたように頭をかいて、少し赤くなった顔を隠すように耳元に顔を寄せてきた。 「だとしたら。 」 「なんだよ。 」 「高人さんがそうさせてるんじゃないですか？」 ほら、また。 そうやって優しい目をするから俺はチュン太に吸い寄せられる。 その目で見つめられると本当にドキドキする。 だからやっぱり、好きだって再認識してしまう。 いつも甲斐甲斐しく俺の世話をして、ちょっとでも他のヤツに触れられでもしたら不機嫌そうな顔を崩さない。 それでもふたりでいるときは、蕩けるような目を向けて優しくしてくれる。 いつも好きだのなんだのと言ってくれはするけど、初めはやっぱり本当なのか不安だった。 だから自惚れてもいいだろうか。 俺は本当にチュン太の特別だって。 いきなり後頭部に手を添えられてキスをされる。 さっきとは比べ物にならないくらい激しいキス。 チュン太とキスをするといつも頭が真っ白になってわけが分からなくなる。 たかがキスだと思っていた。 芝居でも何度もしていることなのに、こんな風に下半身にズクンとくるなんて、チュン太とするまで知らなかった。 「ん…んぅ……」 「高人さんかわいい。 」 「うる、さい。 」 所在なくTシャツの胸あたりを掴んでいた手をチュン太の首に回す。 鼻先を耳の下あたりに寄せてチュン太の香りを感じた。 世界一安心できる香り。 ふたりでいたらどんなことも怖くないと思えるようになった。 好きだ、何度も思う。 うまく言葉にできないのはまだまだ精いっぱいの状態だからだと思っていて欲しい。 でも、これぐらいはできるようになったから。 今度は俺からさっきよりもすごいキスをしてやるよ。 ちゅ、ちゅと角度を変えて、俺の好きなチュン太のやり方で、何度も深くキスをした。 わざとらしくちゅっと音を立てて唇を離した。 恥ずかしくて俯いてしまった俺の名前を呼ぶチュン太の優しい声。 視線だけを上に向けると世界中でいちばん甘いんじゃないかというような蜂蜜色の瞳と目が合った。 「たかとさん。 」 最大級に甘さを含んだ俺を蕩けさせて甘やかす声。 さっきからお互いのそれが主張している。 意地悪なチュン太は少し腰を押し付けてきて、それだけでもう我慢が出来なくなる。 チュン太も俺とキスするだけで、こんなに。 恥ずかしいのに、嬉しくて。 もっとって俺も腰を押し付けてしまう。 顔を見ることなんてできなくて首にぎゅっと抱きついて、まるで気持ちいいことを覚えたての子供みたいに夢中で自分のそれをチュン太のそれにズボン越しに擦りつける。 「高人さんにそんなにされたらもう……」 「ん、俺も…」 抱き上げられてベッドに運ばれる。 壊れ物を扱うように優しく抱えてくれるチュン太の腕の中はとても安心できる。 その一瞬一瞬がとても大切に感じてしまう。 事後に髪を撫でて額にキスをされると幸せで満たされる。 抱きしめられて眠ること以上の幸せがあるんだろうか。 チュン太の最中の顔を知ってるのは、多分俺だけじゃない。 だけど、こんな風に熱く甘い目をした顔は、きっと俺しか知らないはず。 それを思うと胸がいっぱいになる。 好きだって、言われるたびに本当は嬉しい。 チュン太の特別だって思えるから。 「高人さん大好きです。 おやすみなさい。 」 「おやすみ、チュン太。 」 背中を向けて眠ろうとする。 そしたらほら、必ず後ろから抱きしめてくれるから。 好きだ、つぶやくように言って回されたチュン太の手に自分の手を重ねる。 後ろから俺の首元にキスをしてチュン太がまた好きですと言う。 それからこっち向いてくださいって向かい合わせにさせられる。 こんな終わらないやりとりが続けばいいのに。 もう一度キスをして、甘い瞳に絡め取られて時間が止まる。 本当に、好きだ。
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