とりあえず布団に寝るようにしろ、と。 そうじゃないと働きっぱなしだ。 サビ丸は渋々頷いてたが、本当にわかってるか不安だ。 先に風呂に入り、布団のうえに寝転がってた。 身体はぽかぽかとあたたかい。 薄い布団でも寝転がるとそれなりに心地好い。 かたん、と音がしたほうを見るとサビ丸が風呂から上がったようだ。 髪からぽたぽたと水滴が垂れてる。 なにやってんだ。 早く拭かないと風邪をひく。 風邪をひかれたら、また面倒だ。 あいつは風邪をひいていようが、意地でもいろいろやってくるだろう。 髪をかわかせ、と言おうとしたら、突っ立ってたサビ丸が俺のほうに来た。 「……サビ丸?」 「……」 電気が遮られ、視界が薄暗くなった。 目の前にはサビ丸の顔がある。 俺に跨がり、じいっと見つめてくる。 なんだ、サビ丸のやつ。 風呂上がりだからか、顔が赤いのはわかる。 けど、なにも言わずに近寄ってくるなんて。 俺は起き上がり、ずるずると後ろに下がる。 なんだ、いきなり。 布団は用意してあるのにこっち側がよかったのか? サビ丸は俺を追いかけてきた。 壁際まで追い詰めると、そっと頬に触れてくる。 優しく包み込むように触ってきて、どくっと胸が鳴った。 自分でも顔が赤いことがわかるほど熱を帯びてるのを感じた。 熱のこもった視線とぶつかる。 サビ丸のこんな目、はじめて見た。 「……なっ、あ……」 「よしとおさま」 「……サビ……っ……」 甘ったるい声に、身体がわなないた。 どっどっとうるさいくらいに鼓動が耳に届く。 サビ丸の端正な顔が近づいてくる。 それを目の前で見てる俺の瞳は潤みつつあった。 じわりと目頭が熱くなってるのがわかる。 混乱していた俺はどうしたらいいかわからなくて。 サビ丸の頬にそっと触れた。 頬はあったかい。 幽霊とか幻とか、そういった類のものじゃないんだな。 サビ丸がごくりと喉を鳴らす。 徐々に顔を近づけてきた。 近くで見るとまつげが長い。 キリッとしててやっぱりイケメンだ。 女子はこういうのが好みなんだよな。 サビ丸……もしかして、お前は。 サビ丸の頬を思いきり引っ張った。 「……いっ!」 「……夢、じゃなかった……」 夢かと思ったけど、違ったみたいだ。 サビ丸は痛みに頬をさすってるから、これは現実か……。 と、思ったところで今の状態にはっとした。 サビ丸との距離、およそ十五センチ。 目の前にある端整な顔。 あまりの近さにかあっと顔が熱くなる。 どうしようもない思いに身体がわなわなと震える。 男同士でこんな状況はおかしい。 なにしてんだ俺は……! サビ丸は俺から顔を離す。 痛みのあまり、目に涙をにじませてる。 俺に謝罪するわけでもなく、ようやく口を開いたかと思えば、よしとおさま、と名前を呼ぶだけで。 熱を帯びた顔を伏せ、唇を噛んだ。 なんだ、なんなんだよサビ丸。 なにがしたいんだ! 痺れを切らしたらしいサビ丸が、ようやく口を開いた。 可愛いです! とわけのわからない叫び声をあげ、抱き着こうとしてきた。 なかば俺に突っ込んでくるかたちで。 サビ丸のあまりの変貌に俺はぎょっとした。 とっさのことだったけど、身の危険を感じた俺は、それをかわした。 じと、と壁と熱いキスをかわしてるサビ丸を睨む。 がつん、と大きな音がした。 壁と対面してたサビ丸が顔を離したら、痛々しいほどに鼻が赤くなってる。 ばっ、と俺のほうを向くとそれでもなお、熱のこもった視線を送ってくる。 「こっの……この大馬鹿! もう知らないからっ」 そんな視線にどうしたらいいのかわからず。 脱兎のごとく、部屋から出ていった。 「よっ、善透さま! お待ちください!」 このあと、夜の街を駆け回る俺とサビ丸がいて。 ……つぎの日は学校だというのに、なにをしてたんだか。 ただ、ひたすら逃げることに気がいっていたんだ。 『愛あればすなわち、』 問題解決……って、そんなわけありませんでした。 End. 2012. co4nine1]].
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