風 に 吹 かれ て も。 風に吹かれて《芋焼酎》塩田酒造【紀乃島屋】鹿児島芋焼酎通販・販売

うえつふみ 宗像本

風 に 吹 かれ て も

高窓 ( たかまど )の 障子 ( しょうじ )の 破 ( やぶ )れ 穴 ( あな )に、 風 ( かぜ )があたると、ブー、ブーといって、 鳴 ( な )りました。 もう 冬 ( ふゆ )が 近 ( ちか )づいていたので、いつも 空 ( そら )は 暗 ( くら )かったのです。 まだ 幼年 ( ようねん )の 彼 ( かれ )は、この 音 ( おと )をはるかの 荒 ( あら )い 北海 ( ほっかい )をいく、 汽船 ( きせん )の 笛 ( ふえ )とも 聞 ( き )きました。 家 ( いえ )から 外 ( そと )へ 飛 ( と )び 出 ( だ )して、 独 ( ひと )り 往来 ( おうらい )に 立 ( た )っていると、 風 ( かぜ )が、 彼 ( かれ )の 耳 ( みみ )もとへ、 「 明日 ( あした )は、いいことがある。 」と、ささやきました。 「そうだ、きっとお 父 ( とう )さんが、 明日 ( あした ) 帰 ( かえ )っていらっしゃるのだ。 」 彼 ( かれ )は、 希望 ( きぼう )を 持 ( も )って、 明 ( あか )るくその一 日 ( にち )を 過 ( す )ごすのです。 彼 ( かれ )の 生 ( う )まれた 町 ( まち )は、 小 ( ちい )さな 狭 ( せま )い 町 ( まち )でした。 火 ( ひ )の 見 ( み )やぐらの 頂 ( いただき )に、 風車 ( ふうしゃ )がついていて、 風 ( かぜ )の 方向 ( ほうこう )を 示 ( しめ )すのであるが、 西北 ( せいほく )から 吹 ( ふ )くときは、 天気 ( てんき )がつづいたのであります。 空 ( あ )き 車 ( ぐるま )の 上 ( うえ )へ 馬子 ( まご )が 乗 ( の )って、 唄 ( うた )などうたい、 浜 ( はま )の 方 ( ほう )へ 帰 ( かえ )る、ガラ、ガラという、 轍 ( わだち )の 音 ( おと )が、だんだんかすかになると、ぼんやり 立 ( た )って、 聞 ( き )いている 彼 ( かれ )の 耳 ( みみ )もとへ、 風 ( かぜ )は、 「 明日 ( あした )は、いいことがある。 」と、ささやくのでした。 すると、 急 ( きゅう )に 彼 ( かれ )の 目 ( め )は、 喜 ( よろこ )びに 燃 ( も )えるのでした。 「そうだ、 明日 ( あした )は、お 客 ( きゃく )さまがあるのかもしれない。 」 まれに、 彼 ( かれ )の 家 ( いえ )へ 珍 ( めずら )しい 客 ( きゃく )があって、おもしろい 話 ( はなし )をしてくれるのを、 彼 ( かれ )は、どんなにうれしく 思 ( おも )ったでしょう。 ある 日 ( ひ )、 彼 ( かれ )は、 停車場 ( ていしゃば )で、 美 ( うつく )しい 女 ( おんな )の 人 ( ひと )を 見 ( み )ました。 ようすつきから、この 土地 ( とち )の 人 ( ひと )でなく、 旅 ( たび )の 人 ( ひと )だということがわかりました。 そして、いいしれぬやさしい 顔 ( かお )は、かえって 悲 ( かな )しみをさえ 感 ( かん )じさせたのです。 彼 ( かれ )は、その 人 ( ひと )の 顔 ( かお )を 忘 ( わす )れることができませんでした。 汽車 ( きしゃ )が 遠 ( とお )く 去 ( さ )ってしまった 後 ( あと )、かぼちゃの 花 ( はな )の 咲 ( さ )く 圃 ( はたけ )に 立 ( た )ち、 無限 ( むげん )につづく 電線 ( でんせん )の 行方 ( ゆくえ )を 見 ( み )やりながら、 自由 ( じゆう )に 大空 ( おおぞら )を 飛 ( と )んでいるつばめの 身 ( み )を、うらやんだことがありました。 ちょうど、そのころ、 他国 ( たこく )から 帰 ( かえ )った、 親類 ( しんるい )のおじさんがありました。 一同 ( いちどう )は、この 人 ( ひと )のことを 道楽者 ( どうらくもの )だと、よくいわなかったけれど、 彼 ( かれ )には、いつも 思 ( おも )いやりのある 言葉 ( ことば )をかけてくれたし、 怒 ( おこ )った 顔 ( かお )を 見 ( み )せなかったので、なんとなく 慕 ( した )わしく 思 ( おも )われました。 おじさんは、 孤独 ( こどく )なのが、さびしかったのでしょう、ときどきマンドリンなど 鳴 ( な )らして、 独 ( ひと )りで 自分 ( じぶん )をなぐさめていました。 このことを 知 ( し )ったときから、 彼 ( かれ )にも 音楽 ( おんがく )が、なによりか 好 ( す )きなものとなったのです。 彼 ( かれ )の 少年時代 ( しょうねんじだい )は、いつしか 去 ( さ )りました。 そして、 小 ( ちい )さな 町 ( まち )をはなれて、 大 ( おお )きな 市 ( し )へ 移 ( うつ )るころには、 彼 ( かれ )はもうりっぱに 働 ( はたら )きのできる 若者 ( わかもの )でありました。 けれど、 心 ( こころ )に 芸術 ( げいじゅつ )を 忘 ( わす )れなかったのです。 町 ( まち )の 中 ( なか )を 川 ( かわ )が 流 ( なが )れていた。 橋 ( はし )の 畔 ( たもと )に 食堂 ( しょくどう )がありました。 彼 ( かれ )はこの 家 ( いえ )で 友 ( とも )だちといっしょに 酒 ( さけ )を 飲 ( の )んだり、 食事 ( しょくじ )をしたのでした。 和洋折衷 ( わようせっちゅう )のバラック 式 ( しき )で、 室内 ( しつない )には、 大 ( おお )きな 鏡 ( かがみ )がかかっていました。 その 傍 ( かたわ )らには、 幾 ( いく )つもびんの 並 ( なら )んだ 棚 ( たな )が 置 ( お )いてあった。 酒 ( さけ )と 脂 ( あぶら )のにおいが、 周囲 ( しゅうい )の 壁 ( かべ )や、 器物 ( きぶつ )にしみついていて、 汚 ( よご )れたガラス 窓 ( まど )から 射 ( さ )し 込 ( こ )む 光線 ( こうせん )が 鈍 ( にぶ )る 上 ( うえ )に、たばこの 煙 ( けむり )で、いつも 空気 ( くうき )がどんよりとしていました。 たとえ四 季 ( き )おりおりの 花 ( はな )が、 棚 ( たな )の 上 ( うえ )に 活 ( い )けてあっても、すこしも 新鮮 ( しんせん )な 感 ( かん )じを 与 ( あた )えず、その 色 ( いろ )があせて 見 ( み )えた。 それとくらべていいように、そこにいる 女 ( おんな )たちは、 濃 ( こ )く 口紅 ( くちべに )をつけ、 顔 ( かお )に 厚 ( あつ )く 白粉 ( おしろい )を 塗 ( ぬ )っていたけれど、なんとなく 若 ( わか )さを 失 ( うしな )い、 疲 ( つか )れているように 見 ( み )えたのです。 しかるに、 彼 ( かれ )は、あるとき、ハーモニカで、「 故郷 ( こきょう )の 歌 ( うた )」をうたいました。 目 ( め )に 広々 ( ひろびろ )とした、 田園 ( でんえん )を 望 ( のぞ )み、 豊穣 ( ほうじょう )な 穀物 ( こくもつ )の 間 ( あいだ )で 働 ( はたら )く 男女 ( だんじょ )の 群 ( む )れを 想像 ( そうぞう )し、 嬉々 ( きき )として、 牛車 ( ぎゅうしゃ )や、 馬 ( うま )の 後 ( あと )を 追 ( お )う 子供 ( こども )らの 姿 ( すがた )を 描 ( えが )いたのであります。 一 曲 ( きょく ) 終 ( お )わると、すすり 泣 ( な )く 女 ( おんな )の 声 ( こえ )がしました。 翌日 ( よくじつ )この 店 ( みせ )をやめて、 故郷 ( こきょう )へ 帰 ( かえ )った 女 ( おんな )があります。 彼女 ( かのじょ )の 故郷 ( こきょう )が、 彼 ( かれ )の 歌 ( うた )が、 彼女 ( かのじょ )の 魂 ( たましい )を 呼 ( よ )びもどしたのです。 メーデーの 日 ( ひ )でした。 丘 ( おか )の 上 ( うえ )の 新緑 ( しんりょく )が、 風 ( かぜ )に 吹 ( ふ )かれて、さんさんとした、 日 ( ひ )の 光 ( ひかり )の 中 ( なか )で 躍 ( おど )っていました。 見 ( み )わたすと、 乳色 ( ちちいろ )の 雲 ( くも )が、ちょうど 牧人 ( ぼくじん )の、 羊 ( ひつじ )の 群 ( む )れを 追 ( お )うように、 町 ( まち )を 見 ( み )おろしながら、 飛 ( と )んでいくのでした。 風 ( かぜ )は、 彼 ( かれ )の 耳 ( みみ )もとへ、 「 明日 ( あした )は、いいことがある。 」と、いつものように、 希望 ( きぼう )をささやきました。 彼 ( かれ )は、 友 ( とも )だちと 腕 ( うで )を 組 ( く )み、 調子 ( ちょうし )をそろえて、 労働歌 ( ろうどうか )をうたった。 その 声 ( こえ )の 響 ( ひび )く 間 ( あいだ )は、 美 ( うつく )しい 数々 ( かずかず )の 幻想 ( げんそう )が 浮 ( う )かびました。 たとえば、百 貨店 ( かてん )にあるような、 赤 ( あか )、 青 ( あお )、 緑 ( みどり )の 冷 ( つめ )たく 透 ( す )きとおるさらや、コップなどを 製造 ( せいぞう )するガラス 工場 ( こうじょう )の 光景 ( こうけい )とか、 忽然 ( こつぜん )それが 消 ( き )えると、こんどは、 高 ( たか )い 煙突 ( えんとつ )から 黒 ( くろ )い 煙 ( けむり )が 流 ( なが )れ、また 幾本 ( いくほん )となく 起重機 ( きじゅうき )のそびえたつ、 大 ( おお )きな 鉄工場 ( てっこうじょう )が 現 ( あらわ )れるのでした。 そして、 歌 ( うた )がやむとともに、それらの 形 ( かたち )と 影 ( かげ )もどこへか 没 ( ぼっ )してしまいました。 彼 ( かれ )が、またハーモニカで、インターナショナルをうたったときには、 洋々 ( ようよう )たる 海原 ( うなばら )が 前面 ( ぜんめん )へ 盛 ( も )り 上 ( あ )がりました。 そして、 汽船 ( きせん )の 過 ( す )ぎた 後 ( あと )には、しばらく 白浪 ( しらなみ )があわだち、それも 静 ( しず )まると、 海草 ( かいそう )がなよなよと、 緑色 ( みどりいろ )の 旗 ( はた )のごとくなごやかにゆれるのでありました。 彼 ( かれ )の 青年時代 ( せいねんじだい )は、 夢 ( ゆめ )も 多 ( おお )かったかわりに、また、 反面 ( はんめん )あまりに 醜 ( みにく )かった 現実 ( げんじつ )のために、 焦燥 ( しょうそう )と 苦悶 ( くもん )をきわめたのです。 目 ( め )で 見 ( み )た、一つの 例 ( れい )をとれば、ここに 毎朝 ( まいあさ ) 出勤 ( しゅっきん )する 紳士 ( しんし )があります。 その 人 ( ひと )は、 気 ( き )むずかしく、 家庭 ( かてい )では、なにか 気 ( き )にいらぬことでもあれば、 罪 ( つみ )のない 細君 ( さいくん )をしかり、 子供 ( こども )をなぐったりしたのに、 出社 ( しゅっしゃ )して、 上役 ( うわやく )の 前 ( まえ )では、まったく 別人 ( べつじん )のごとく、 頭 ( あたま )をぺこぺこして、 愛想 ( あいそう )がよかったのです。 しかるに、 上役 ( うわやく )は、 冷然 ( れいぜん )として、 皮肉 ( ひにく )な 目 ( め )つきで、その 男 ( おとこ )を 見下 ( みくだ )して、 命令 ( めいれい )します。 この 場合 ( ばあい )、だれが 聞 ( き )いても 無理 ( むり )と 思 ( おも )われるようなことでも、 男 ( おとこ )は、 服従 ( ふくじゅう )しなければなりませんでした。 風彩 ( ふうさい )からいえば、その 男 ( おとこ )のほうが、 上役 ( うわやく )よりりっぱでした。 頭髪 ( とうはつ )をきれいに 分 ( わ )け、はいているくつも 出 ( で )かける 前 ( まえ )に、 哀 ( あわ )れな 細君 ( さいくん )が 念 ( ねん )をいれてみがいたので、ぴかぴかと 光 ( ひか )っています。 まだ 社 ( しゃ )では、それでもいいが、 男 ( おとこ )は、ときどき 上役 ( うわやく )の 家庭 ( かてい )へも、ごきげんを 伺 ( うかが )いに 出 ( で )なければなりません。 我 ( わ )が 家 ( や )では、 妻 ( つま )や 子供 ( こども )らに 対 ( たい )して、 厳格過 ( げんかくす )ぎるといってもいいのに、 上役 ( うわやく )の 家 ( いえ )では、やんちゃ 坊主 ( ぼうず )を 晴 ( は )れ 着 ( ぎ )の 脊中 ( せなか )へ 乗 ( の )せて、 馬替 ( うまが )わりとなって 歩 ( ある )きます。 これは、そうした 社会 ( しゃかい )の 話 ( はなし )であるが、 音楽家 ( おんがくか )や、ほかの 芸術家 ( げいじゅつか )も、また 同 ( おな )じでした。 ある 美貌 ( びぼう )の 声楽家 ( せいがくか )は、 指 ( ゆび )に 宝石 ( ほうせき )をかがやかせ、すましこんで、ステージに 立 ( た )ち、たとえ 聴衆 ( ちょうしゅう )を 睥睨 ( へいげい )しながら 歌 ( うた )っても、 蔭 ( かげ )では、 権力 ( けんりょく )のあるものや、 金力 ( きんりょく )あるもののめかけであったり、 男 ( おとこ )どもには、 幇間 ( ほうかん )に 類 ( るい )するやからが 少 ( すく )なくなかったのでした。 こうした 社会 ( しゃかい )を 見 ( み )、こうした 現実 ( げんじつ )を 知 ( し )るとき、 彼 ( かれ )は、 余 ( よ )の 人 ( ひと )のごとく、 平然 ( へいぜん )たることができなかったのです。 ただ 聰明 ( そうめい )をかいたがため、 階級 ( かいきゅう )に 対 ( たい )しては、 組織 ( そしき )ある 闘争 ( とうそう )でなければならぬのを、一 途 ( ず )に 身 ( み )をもって、 憎 ( にく )いと 思 ( おも )う 対象 ( たいしょう )にぶつかりました。 それ 故 ( ゆえ )に、 結局 ( けっきょく )へとへとになって、 揚句 ( あげく )は 酒場 ( さかば )で 泥酔 ( でいすい )し、わずかに 鬱 ( うつ )を 晴 ( は )らしたのです。 彼 ( かれ )は、 芸術 ( げいじゅつ )を 商品 ( しょうひん )に 堕落 ( だらく )さしたやからをも 憤 ( いきどお )りました。 街頭 ( がいとう )へ 身 ( み )をさらし、 雪 ( ゆき )まじりの 風 ( かぜ )の 吹 ( ふ )く 中 ( なか )で、バイオリンを 弾 ( ひ )き、 悲痛 ( ひつう )の 唄 ( うた )をうたって、 道 ( みち )ゆく 人 ( ひと )の 足 ( あし )を 止 ( と )めようとしました。 けれど 畢竟 ( ひっきょう ) 自分 ( じぶん )を 慰 ( なぐさ )め、 苦痛 ( くつう )を 忘 ( わす )れさせるものには 酒以外 ( さけいがい )ないことを 知 ( し )ったが、 生 ( う )まれた 日 ( ひ )から、 今日 ( きょう )まで、 瞬時 ( しゅんじ )も 休 ( やす )まず 鼓動 ( こどう )をつづける 心臓 ( しんぞう )に 触 ( ふ )れて、 愕然 ( がくぜん )として、 彼 ( かれ )は、 真 ( しん )に 自身 ( じしん )をあわれむ 気 ( き )が 起 ( お )こったのでした。 ほんとうに、ブルジョアに 隷属 ( れいぞく )する 彼 ( かれ )らが、よどんだ 沼 ( ぬま )の 中 ( なか )につながれた 材木 ( ざいもく )であり、 縛 ( しば )ったなわもろとも、いつか 腐 ( くさ )る 運命 ( うんめい )にあるなら、 彼 ( かれ )は、さながら 激流 ( げきりゅう )の 彼方 ( かなた )の 岸 ( きし )、 此方 ( こなた )の 岩角 ( いわかど )と 衝突 ( しょうとつ )しながら、 漂 ( ただよ )いいくいかだのごときもので、 時代 ( じだい )の 犠牲 ( ぎせい )たることに 異 ( ちが )いがなかったのです。 ある 日 ( ひ )、 彼 ( かれ )は、 若 ( わか )い 時分 ( じぶん )、 下宿 ( げしゅく )していたことのある 所 ( ところ )を 通 ( とお )りました。 橋 ( はし )の 畔 ( たもと )にあった 食堂 ( しょくどう )は、もうそこになかった。 あのころの 娘 ( むすめ )は、すべてお 嫁 ( よめ )にいき、 母親 ( ははおや )となって、 生 ( う )まれた 子供 ( こども )も、 大 ( おお )きくなったであろう。 それだけでなく、あのころの 男 ( おとこ )の 子 ( こ )は、 兵隊 ( へいたい )にいき、なかには、すでに 戦死 ( せんし )したものもあるであろう。 こう 考 ( かんが )えると、 彼 ( かれ )は、 歩 ( ある )きながら 感慨無量 ( かんがいむりょう )なのでした。 記憶 ( きおく )に 残 ( のこ )る 床屋 ( とこや )があったので 入 ( はい )りました。 もちろん 主人 ( しゅじん )もちがっていれば、 内部 ( ないぶ )のようすも 変 ( か )わっていました。 それよりも 驚 ( おどろ )いたのは、 鏡 ( かがみ )に 映 ( うつ )った 自分 ( じぶん )の 姿 ( すがた )でありました。 頭髪 ( とうはつ )は、 半分 ( はんぶん ) 白 ( しろ )く、 顔 ( かお )には 小 ( こ )じわが 寄 ( よ )って、 当年 ( とうねん )の 若々 ( わかわか )しさが、まったく 消 ( き )え 失 ( う )せてしまったことです。 ふたたび、 路上 ( ろじょう )へ 出 ( で )ると、 風 ( かぜ )が、 耳 ( みみ )もとで、「みんな 流 ( なが )れのごとく 去 ( さ )ってしまった。 」と、ささやきました。 彼 ( かれ )は 頼 ( たよ )りなく、さびしく、 独 ( ひと )りうなずいたのでした。 丘 ( おか )へ 上 ( あ )がると、 春 ( はる )のころは、 新緑 ( しんりょく )が 夢見 ( ゆめみ )るように 煙 ( けむ )った、たくさんの 木立 ( こだち )は、いつのまにかきられて、わずかしか 残 ( のこ )っていなかった。 足 ( あし )もとには、 小 ( ちい )さな 家屋 ( かおく )がたてこんで、 物干 ( ものほ )しの 洗濯物 ( せんたくもの )が、 夏空 ( なつぞら )の 下 ( した )で、 風 ( かぜ )にひるがえり、すこしばかりの 空 ( あ )き 地 ( ち )で、 子供 ( こども )が、 鬼 ( おに )ごっこをして 遊 ( あそ )んでいました。 一人 ( ひとり )ハーモニカを 持 ( も )った、 男 ( おとこ )の 子 ( こ )がいました。 その 子 ( こ )は、 鬼 ( おに )ごっこに 加 ( くわ )わらず、ぼんやり 立 ( た )っていたので、 彼 ( かれ )は、そばへいき、ハーモニカを 借 ( か )りて、いまなお 子供 ( こども )たちに 親 ( した )しまれる、ちょうちょう、ちょうちょう、 菜 ( な )の 花 ( はな )にとまれを 吹 ( ふ )いて、 聞 ( き )かせたのです。 すると、 子供 ( こども )たちは、 鬼 ( おに )ごっこをやめて、 「おじさんは、うまいんだなあ。 」と、たちまち 彼 ( かれ )を 取 ( と )り 巻 ( ま )きました。 いま 子供 ( こども )らの 目 ( め )は、いずれも 遠 ( とお )い、 美 ( うつく )しいものを 憧 ( あこが )れているのです。 彼 ( かれ )は、その 姿 ( すがた )のうちに、 少年時代 ( しょうねんじだい )の 自分 ( じぶん )を 見 ( み )いだしました。 そして、あの、なつかしい 親類 ( しんるい )のおじさんを。 「おじさんは、どこからきたの?」と、 子供 ( こども )が、ききました。 「あっちから、 君 ( きみ )たちとお 友 ( とも )だちになりにきたのだよ。 」と、 彼 ( かれ )は、 答 ( こた )えました。 「ほんとう、ここは 涼 ( すず )しいよ。 そんなら、 明日 ( あした )から、 木 ( き )の 下 ( した )で、おもしろいお 話 ( はなし )をしてくれたり、ハーモニカを 吹 ( ふ )いて 聞 ( き )かしておくれよ。 」 「いいとも。 」 このとき、 風 ( かぜ )は、 頭 ( あたま )の 上 ( うえ )で、さわやかにささやきました。 「 明日 ( あした )から、いいことがある。 」 彼 ( かれ )の 胸 ( むね )に、かすかながら、ふたたび 希望 ( きぼう )がよみがえったのであります。

次の

小川未明 風はささやく

風 に 吹 かれ て も

代金引換 代金引換の手数料は以下の通りです。 銀行振込• 振込手数料はお客様負担でお願い致します。 ご入金が確認出来た後の発送となります。 土日祝日はお振込の確認が出来ないため、翌営業日以降の発送となります。 お届け日をご指定される方はご注意下さいませ。 予めご了承下さい。 郵便振込• 振込手数料はお客様負担でお願い致します。 ご入金が確認出来た後の発送となります。 予めご了承下さい。 ご了承下さいませ。 基本的に「1個口単位」で送料がかかります。 ご注文は1本から承りますが、お買上げ本数に応じて 「送料無料」や「送料半額」などの「送料割引サービス」を実施中です。 1800mlは「6本」、900ml以下は「12本」お買上げ頂くと「送料無料」です。 1800mlと900ml以下を混載の場合は、合計6本までが1個口となります。 通常送料は下記の通りです。 北海道 990円 関西 590円 東北 990円 四国 590円 関東 790円 中国 490円 信越 790円 九州 490円 東海・北陸 690円 沖縄 990円 お届け日に関しまして• お届け日のご指定は4日後以降から承ります。 なお、お届け日のご指定が無く、 15時までにご注文頂いた場合は即日発送致します。 (お支払方法が「クレジットカード」「代金引換」の場合。 「銀行振込」「郵便振込」の場合は15時までにお振込が確認できた場合、即日発送致します。 ただし、店休日の場合は翌営業日の発送となります。 また、金融機関の休業日の場合も翌営業日の発送となります。 発送後、お届けまでの目安は下記の通りです。 お届け時間のご指定 下記の時間帯でお届け時間のご指定が可能です。 午前中(8時~12時)• 14時~16時• 16時~18時• 18時~20時• 19時~21時 配送用の箱代 お買い上げ本数が3本以下の場合、配送用の箱代として下記の通り頂戴しております。 お客様に安全にお届けするためですので、ご理解頂きますようお願い申し上げます。 なお、4本以上の場合は無料です。 1本…180円 2本…270円 3本…360円 (容量は問わず共通です。 ) 焼酎を探す• 蔵元から探す• 鹿屋 かのや地区• 大隅 おおすみ地区• 加治木 かじき地区• 出水 いずみ地区• 川内 せんだい地区• 伊集院 いじゅういん地区• 鹿児島 かごしま地区• 知覧 ちらん地区• 指宿 いぶすき地区• 種子島 たねがしま地区• こだわり検索• 味わいから探す• 飲み方から探す• 容量から探す• カートン入りの焼酎• アルコール度数• 麹の種類から探す• 造り・貯蔵のこだわり• 蒸留方法から探す• 蒸留器にこだわった焼酎• 芋の品種から探す• キーワード検索• 検索する.

次の

小川未明 風はささやく

風 に 吹 かれ て も

すべての情報源• 総合的な情報源• 研究社 新英和中辞典 28• 研究社 新和英中辞典 13• Weblio Email例文集 6• Weblio英語基本例文集 5• 浜島書店 Catch a Wave 3• JMdict 1• Eゲイト英和辞典 13• 専門的な情報源• 斎藤和英大辞典 19• 日本語WordNet 17• EDR日英対訳辞書 19• Tanaka Corpus 29• Wikipedia日英京都関連文書対訳コーパス 18• 京大-NICT 日英中基本文データ 1• 官公庁発表資料• 特許庁 115• 書籍・作品• Jack London『火を起こす』 1• Charles and Mary Lamb『ロミオとジュリエット』 1• Oscar Wilde『わがままな大男』 1• Ouida『フランダースの犬』 1• Arthur Conan Doyle『ノーウッドの建築家』 1• Andrew Lang『トロイア物語:都市の略奪者ユリシーズ』 1• Frank Baum『オズの魔法使い』 1• Robert Louis Stevenson『ジキルとハイド』 1• Wells『タイムマシン』 1• Thomas a Kempis『キリストにならいて』 1• Scott Fitzgerald『グレイト・ギャツビー』 3• James Joyce『姉妹』 2• James Joyce『二人の色男』 1• James Joyce『恩寵』 1• James Joyce『死者たち』 1• James Joyce『下宿屋』 1• James Joyce『母親』 1• Arthur Conan Doyle『シャーロック・ホームズの冒険』 1• Robert Louis Stevenson『宝島』 1• Lawrence『プロシア士官』 1• 電網聖書• ペトロの第二の手紙 1• 使徒行伝 1• ヤコブからの手紙 1• ヨハネによる福音書 1• ルカによる福音書 3• マルコによる福音書 2• マタイによる福音書 1.

次の