ストリンダー
「今日の朝の見送り凄かったね……ちょっと恥ずかしかったけど」 『ツボ～？』 「ヤローさんとルリナさんとカブさんがしてくれたんだ。 みんな寝てたの？」 『ギュ～』 「まぁ、昨日のバトル凄かったもんね。 それに今日は早めに出たし……ん？」 ナックルシティに向かう途中、ストーンズげんやキャンプ場で昼食を取り皆で片付けをしていた所、少し先にある砂塵の窪地の巣穴の前に特徴的なオレンジ色の帽子を被った大きな人……キバナさんが何やら楽しそうにスマホロトムに話し掛けているのが見えた。 キバナさんは確かSNSフォロワー数がガラルぶっちぎり1位、更新率も高いのでフォロワー数も日に日に増えて止まることを知らないと有名だ。 まさかその噂のSNS用に写真や動画でも取っているのだろうか、前に見たテレビの内容を思い出しながら未だ巣穴前で話すキバナさんを見つめていると自分のロトムスマホがリュックから出てきた。 『どうやら生配信をしているみたいロト!! 』 「……生配信？」 『不定期でしているみたいロト。 ちなみに視聴者は現在100万人超えロトよ～』 「100万……!? 」 何をしているのか気になっていた自分を見てロトムが調べてくれたようだ。 画面に映し出されるキバナさんの生配信に驚き目を見開くと、画面のキバナさんが横に向き「おっ」と声をあげた。 「スカイクイーンの娘さんがいるぞ」 そう呟いた瞬間画面から消えるキバナさん。 まさかと思い自分も横を向けば全速力でこちらにやって来るオレンジと紺色の物体。 驚きと恐怖を感じて思わず後退するとドラメシヤもそう感じたのか風の如くフードの中へと身を潜めた。 「よぉ、名前は……」 「あ、ユリです」 「あぁ、そうそうユリな。 配信とか大丈夫か？」 「大丈夫……です」 思った以上にデカいし怖い。 ジャージのポケットに手を入れて見定めるように自分を見下ろすキバナさんに冷や汗を流していると、その端正な顔めがけてベチンッと勢いよくユニランがぶつかってきた。 堪らず顔を押さえて踞るキバナさん。 あまりにも良い音だったので笑いが込み上げてくるがここで笑ったら炎上するに違いない。 必死に堪えながら心配の言葉をかけると指の間から青い瞳が自分を捕らえる。 「な、何が起こったんだ？」 「すみません!! ユニランがぶつかったみたいで……」 「いや故意だろ」 本気で怒っていないとは言え絶対故意にぶつかってきたよなと立ち上がってユニランに抗議する姿にヒヤヒヤしていると、キバナさんはため息をついてニット帽越しに頭を掻いた。 「まぁ、オレもいきなり悪かった。 主人と仲間を守ろうとしたんだろ？」 『ユニャ』 「その度胸は褒めてええ"ぇぇぇぇっ!? 」 今度はバチバチと電気に包まれ悲鳴をあげ、派手に地面へ倒れるキバナさん。 まさかと思い足元を見ると眉間に皺を寄せたエレズンが足にしがみつき、頬を押し付けていた。 「エレズン!! 」 「こ、今度は何だよ……」 「すみません!! エレズンがほっぺすりすりを……!! 」 『ウア～』 「さっきからテメェらな……オレ様は不審者じゃねぇぞ!! 」 いい加減にしろと手も使わず起き上がり、ぷんすこ怒るキバナさんを煽るようにブーと口を鳴らしていつもより舌を出すエレズン。 それに更にカチンときたのか、キバナさんは大きく口を開け、所謂ガオーポーズで未だ腕の中で煽るエレズンを威嚇した。 『ウアッ!! 』 「いでっ」 だが、そんなのじゃエレズンが怯む訳もなく、何だそれと言うように右手をはたく。 これはどう対処するのが正解なのだろうか。 戸惑いながらツボツボを見下ろせば首を横に振られ、ユニランは相変わらず口を開けたままボケーッと子供の喧嘩を見つめ、ドラメシヤはガオーポーズに怯えて再びフードへ引っ込む。 よく分からないこの状況でただ1つ分かるのは、これはキバナさんのファンにとってはものすごく需要があるということ。 非常に盛り上がったコメントが流れるキバナさんのスマホロトムに頬を引きつらせば、エレズンがギュッとパーカーの紐を引っ張った。 『ウゥ……』 「あ、お前!! 泣くのはずりぃぞ!! 」 えぐえぐとキバナさんが悪いと言うように指し、上目遣いで訴えるエレズン。 だが今回は一方的にこっちが悪いので謝りなさいと叱ると、エレズンは拗ねたように頬を膨らませて自分の胸に顔を押し付ける。 「すみませんでした!! 大丈夫……じゃないですよね」 「オレ様を誰だと思ってんだ、最強のジムリーダー様だぞ？ エレズンのほっぺすりすり如きでへばるとでも？」 「い、いや……とんでもございません」 鋭い眼光に冷や汗を流せばフードの中のドラメシヤも連動するように震えを大きくさせる。 すると、それに気づいたユニランがさっきより弱めにキバナさんの顔面にぶつかった。 「なんか、そんなに怖がられると傷つくんだが……」 先ほどの鋭い眼光はどこへやら。 ユニランを鷲掴みにして離れさせた瞬間タレ目になり、肩を落としたキバナさんをどう盛り上げようか戸惑っているとキバナさんのスマホロトムが割って入ってきた。 『お互いのことをよく知らないからこうなるんだロト!! 親睦会するロト!! まずは簡単な自己紹介をし、次はポケモンとの出会い。 そして、いつも通りユニランを抱き枕にして眠るエレズンにツボツボと自分の間で上目遣いにキバナさんを見つめるドラメシヤ。 キバナさんはそれぞれ優しく撫でると、ツボツボ特製のきのみジュースを口に含んだ。 「ツボツボとは何年ぐらいの付き合いなんだ？」 「確か……私が5歳の時に来たので11年ぐらいです」 『ツボ～』 「なげぇな。 そりゃカブさんのマルヤクデを1撃で倒すわ」 「見たんですか？」 「チャレンジャーの試合は全部見てる。 しかし、あの戦法には驚いたぜ。 水で消火するのは何回も見てきたが……まさか、がんせきふうじで消火するとは。 その後の戦法も正直痺れた」 ツボツボってあんなに速く回れるんだな、ていうか耐久力ヤベェ、カッケー。 など、自分のポケモン達のこれまでのジム戦について熱く話すにつれ語彙力が無くなっていくキバナさんに苦笑していると「全然食いつかないのな」と急に真顔になられた。 「お前、バトルの時すげぇ楽しそうな表情になるから食いつくかと思ってたけど」 「そうなんですか？」 「ニャースみたいに瞳孔ガン開きしてるぞ。 昨日は特に凄かった」 「え"っ!? マジですか!? 」 それが本当ならちょっとヤバい人じゃないか。 頭を抱えて視聴者の反応を見るためキバナさんのスマホロトム視線を向けると予想外のコメントが多く流れていた。 自分はスカイクイーン時代の母はあまり知らないので視聴者にどんな感じだったのか質問するとキバナさんが膝で立って大きく「はぁっ!? 」と声をあげた。 「母親なんだろ!? 何だか申し訳なくなり謝るとキバナさんはため息をついて座り直した。 かく言うキバナさんも世代が違うのでスカイクイーンについてはよく知らないようで、自分と同じようにスカイクイーンについて質問し始める。 最初は然程興味なさそうに頷いていたがある1つのコメントで目の色が変わり、自分の肩を大きすぎる手で鷲掴みにした。 「ドラゴンタイプ使いなのか!? スカイクイーンの親父さん!! 」 「あ、あぁ～」 「手持ちは!? 」 確かにおじいちゃんはドラゴンタイプ使いと言うか……タイプ関係なく空を飛べるドラゴンタイプが好きで手持ち6匹全部ドラゴンタイプだ。 リザードンにガブリアス、ボーマンダ、チルタリス、サザンドラ、オンバーン。 何故リザードンなのかと思うだろうがリザードナイトXでメガシンカをしたらドラゴン、ほのおタイプになるからだ。 そう言われた通り説明をすれば、キバナさんは額を押さえて「ガチじゃねぇか～」と満更でも無さそうに呟いた。 「メガシンカ使えるとか……!! 」 「祖母と母も出来ますよ。 おばあちゃんはリザードナイトYで、母はリザードナイト両方とチルタリス、ピジョット、ボーマンダのを持ってるって」 「それは比較的入手しやすいんだ。 キーストーンがすげぇ希少なんだよ」 「……そうなんですか？」 ポケモン側に持たせるメガストーンは比較的多く見つかっており、バトル施設でBPと呼ばれるポイントで交換出来るらしいが、肝心のキーストーンが全然見つからないという。 「3人共よく見つけたな……。 すげぇ欲しいんだよ、メガシンカ出来るやついねぇけど」 「いないんですか……」 完全にメガシンカ出来るポケモンがいるノリだったじゃないか。 そんな自分のツッコミに満足したのかキバナさんは「腕上げたろ」と得意気にスマホロトムに目線を送る。 それにはロトムも『面白かったロト～』と太鼓判を押したが、配信に集中する為すぐに黙った。 「あの……いつも、こんな感じなんですか？」 「いつもって？」 「こんな風に配信を？ ちゃんと私、面白いですかね？」 「面白いさ。 な？ ユリのロトム」 『大丈夫ロト!! ネットニュースになってるロトよ～』 「えっ!? 」 『スカイクイーンの愛娘、ついにSNSデビュー!? ってニュースになってるロト』 気づけば配信の視聴者も200万人を優に超えて300万人に到達しようとしている。 SNSをやっていない自分がまさかの最強ジムリーダーと生配信をやっているのが物珍しいようで、どんどん視聴者が増えているらしい。 まさかキバナさんのロトムはこれが目的だったのだろうか。 瞬きをする度に数千の規模で増えていく視聴者数に唖然としていると、キバナさんが起きているツボツボとドラメシヤ、そして自分にもう少し寄るよう指示をすると「サービスショットな」とスマホロトムに向かって言い放った。 「大丈夫ですか？ これ」 『ツボ……』 『ギュ～？』 「心配すんな。 オレ様のファンは優しいやつばかりだ」 かなり近い距離に炎上しないかと恐る恐る問いかければキバナさんはへにゃりと笑って強引に肩を掴んで引き寄せ、肩を組んでくれた。 「それにルリナとかサイトウ、メロンさんともよくやるし問題ねぇよ。 流石にポプラさんとはしねぇけど」 「いや……その方々と私を一緒にしないでください」.
次の
