観光公害 事例 日本。 観光公害 スマートな対応例とは?海外、国内の事例

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観光公害 事例 日本

日本では近年インバウンド需要に沸き、外国人訪日数がうなぎ上りに増えています。 観光客に人気のある京都、奈良、鎌倉、また地方でも白川郷や富士山、北海道の人気スポットなど観光客が押し寄せて「観光公害」をおこしている事例がたくさん見られます。 このような現象は日本だけでなく、世界の有名観光地で見られてきたもので、各地でこの問題に対する解決策が模索されています。 どのような問題があり、解決策としてどのような対応事例があるのかを見ていきたいと思います。 観光公害について 「観光公害」というのは過度な観光客の集中によって観光地への負荷が懸念される事態を指します。 具体的には観光客を対象にした開発に伴う環境や景観破壊、文化財や遺跡への悪影響、交通渋滞や大気汚染、現地住民にとっての生活環境の悪化やプライバシーの侵害などがあります。 「観光公害」を英語に直訳すると「tourism pollution」ということになりますが、これは一般的な英語ではなく、英語ではこの現象を表すのに「overtourism(オーバーツーリズム)」のような表現を使います。 日本への観光急増 1990年には320万人、2011年には622万人だった訪日外国人の数は右肩上がりで増加しており2018年には3,000万人を突破して3,119万人になりました。 政府は2020年までにインバウンド観光客4,000万人を目標にかかげていましたが、ラグビーワールドカップや東京五輪・パラリンピックでその目標も達成しそうな勢いです。 日本は外国人にとって自然、文化、歴史、食べ物など魅力あふれる国です。 その上、最近は外国から見ると物価が安くなりコスト的にも魅力的な目的地となってきました。 サービスのレベルも高く治安もいい日本では快適に安心して旅行することができます。 特に、訪日観光客の多くを占める中国、韓国、台湾からの人々にとってはすぐに足を延ばせる格好の目的地となっているのもうなづけます。 バブル崩壊後、国内旅行者が減り低迷を続けていた観光地では外国人観光客が増えたことで何とか地域経済を維持しているところがあります。 その反面、京都、鎌倉、富士山、白川郷、北海道など外国人に人気がある観光地では、キャパシティを超えた観光客が殺到し様々な問題が起こっています。 日本の観光公害 たとえば京都は訪日外国人にとってNo. 1人気を誇る観光地ですが、それだけに観光客があふれかえりオーバーキャパシティの様相を見せています。 歴史を感じさせる寺院や神社を仰ぎ見ることのできる閑静な散歩道、静謐な自然景観が売り物のはずだった場所がラッシュアワーのようなありさまになっているのです。 道路の交通渋滞はもちろん、公共交通機関も駅が込みすぎたり、タクシー乗り場に行列ができるなど一般住民の生活にも支障をきたすようになっています。 同様に、東京から近いことで人気がある鎌倉もかつての静かな住宅街の様相をかえつつあります。 鎌倉市は人口約17万人に対して2017年に100倍以上の観光客数が訪れました。 このため、古くからここに住んでいる人たちや静かな環境を求めて都心から移り住んだ住人にとって、生活に支障が出るほどの悪影響が及んでいるのです。 他にも奈良、宮島、白川郷、富士山、北海道などの観光ホットスポットで、様々な観光公害が起きている事例は快挙にいとまがありません。 海外の観光公害の事例 海外からの観光客の増加は日本だけの現象ではありません。 観光客に人気があるホットスポットでは近年観光による地域経済の恩恵より「観光公害」といっていいほどの悪影響の方が大きくなるほど観光客が増えています。 どうしてこんなことになっているのでしょうか。 外国からの観光客が増えた要因はさまざまですが、主に3つがあげられます。 中国をはじめとする経済拡大によって海外旅行を楽しめる人が増えたこと• 格安航空会社の普及により航空運賃が安くなったこと• 国際メディアやSNSの台頭で外国の情報が手に入りやすくなったこと 観光客が多すぎて問題が起きているホットスポットにはイタリアのヴェネツィア、スペインのバルセロナ、ペルーのマチュ・ピチュ、インドのタージマハール、ガラパゴス諸島など、都市から古代遺跡、自然保護地域などありとあらゆる場所があります。 イギリスでは外国人観光客の急増による問題はそれほど深刻ではありませんが、国内旅行者やセカンドホーム(別荘)を望む人などがもたらす弊害が顕著になってきています。 湖水地方やコーンウォールといった人気のエリアでは旅行者向けの宿泊施設拡充や別荘購入により、もともと安かった田舎の物件の価格が上がり、地元の人の手の届かなくなってしまうという問題です。 海外での問題解決策事例 海外では観光客増加による様々な問題を解決するための方法が模索されています。 どんな方法が導入されているのでしょうか。 イタリア・ヴェネツィア 水の都ヴェネツィアはかねて洪水に悩まされていましたが、最近は洪水のように押し寄せる観光客の被害の方が深刻になってきています。 約5万5000人が住む小さな街に年間2100万人にも上る観光客が訪れるのです。 1940年代に人口が175,000人だったというヴェネツィアでは観光客向けのホテル需要が要因となる住宅価格高騰のため住民は減り続け、代わりに観光客の数が増えています。 陸路でやってくる観光客に加え、96,000トンを超える巨大なクルーズシップでやってくる観光客は船から降りて狭い道をアイスクリーム片手に歩き回り、街で宿泊はせず船に戻っていきます。 ヴェネツィアでは宿泊を目的とせずに市内に入るための入場料を課すことを検討しています。 冬季は2. 50ユーロ、夏季は5~10ユーロのあいだでピーク時に応じて価格は変動するという案です。 これを推奨する人は街に滞在する宿泊客はすでに一泊につき6ユーロの観光税を支払っており、それと何ら変わることはない、カプチーノ一杯の値段だといいます。 けれども、これではヴェネツィアがテーマパークになってしまうという反対意見もあります。 2012年に大型クルーズ船座礁事故が起きたこともあり、イタリア政府はクルーズ船は海岸から5キロ以上離れて運行しなければならないと定められましたが、ヴェネツィアは例外とされました。 けれども2017年末になり、大型クルーズ船はサンマルコ広場のそばを通ることを禁止されることに決まりました。 サンマルコ広場の2倍の大きさになるというクルーズ船は景観を損なうだけでなく、大量の排水によって潟を汚染してもいるのです。 観光客による問題を解決するために他に検討されている案には下記があります。 観光客の数そのものを制限する• ピーク時にサンマルコ広場やリアルト橋などのホットスポットに向かう観光客の数をコントロールする• 本島を離れ潟やムラーノ、ブラーノなどの島に観光客を誘導する• 復活祭やカーニバルなどピーク時を避けるように呼び掛ける けれども地域経済が観光によって成り立っているヴェネツィアでは、ホテルや飲食店ビジネス、土産物店主、ゴンドラや水上タクシーの運営者などの反対もあり簡単に解決策が決まりません。 スペイン・バルセロナ バルセロナは1992年のオリンピックまでは衰退した工業都市でしたが、オリンピックのための開発によって街が生まれ変わり、それからというもの観光都市として成長してきました。 格安航空運賃の追い風に乗り、イギリスやドイツなどヨーロッパ北部からの短期旅行者に人気が出ているのです。 その結果、バルセロナの人口は160万人ですが、今では年間約3,200万人という観光客が訪れています。 観光客の急増によりバルセロナでは交通渋滞や騒音などの問題が顕著になってきています。 また、Airbnb(民泊)の増加により住民用のアパートメント(マンション)の空室が減り、一般市民の家賃が高くなるといった現象もおきています。 バルセロナではこのような問題を解決するために様々な規制を導入しています。 まず、2016年から歴史地区内で観光客向けの新しい商業施設の開設を禁止するとしています。 これにはバルやカフェテリア、自転車レンタル、24時間スーパーなどがあります。 さらに新たなホテル建設を禁止したり、観光客の宿泊を対象としたアパートメントの新築を許可しない方針も発表しました。 観光客を制限する規制についてバルセロナに住む一般市民の中には歓迎する人が多いものの観光客を相手にしているビジネスからは反対意見も出ており、賛否両論の政策ではあるようです。 例えばホテルの新規建設が禁止されたために大手資本が撤退し雇用機会損失など地域へのマイナス経済効果も指摘されています。 オランダ・アムステルダム アムステルダムはオランダの首都とはいえ、人口は85万人とそう大きな都市ではありません。 それなのに観光客は2016年で1,700万人と比較的小さい都市部のキャパシティを超えているといっても過言ではない数になってきています。 アムステルダムは若い人々に人気のスポットがたくさんあることで、外国からたくさんの若者が訪れ飲酒、ドラッグ、バーやクラブなどのナイトライフを楽しむことが多いのを特に問題としています。 このタイプの観光客はさほど地元にお金を落とさないわりに騒音、不道徳な行い、軽犯罪などの問題をひきおこしがちだからです。 そのためにアムステルダムは一連の政策を導入しています。 おもな目的は住民にとっても住みよい街にするために、高所得者層を対象に地元にお金を落としてくれるマナーのいい観光客をターゲットにすることです。 まず、アムステルダムで大人気だったビール・バイクを禁止しました。 そして、旧市街や商業地区で観光客のみを対象とした店の営業を禁止しました。 市内では新規ホテルの建設も中止しています。 さらに、市内への観光バスの乗り入れを禁止しました。 アムステルダム中心部に観光客が偏る問題を解決するために様々な手段も導入されています。 たとえば、中心部にあるクルーズ船ターミナルを郊外へ移転することにしています。 中心部だけでなく、アムステルダム郊外の観光を重点的にマーケティングすることにより、観光客をより広いエリアにバランスよく引き付けることを目標にしています。 さらにアムステルダムでは観光税についても修正を検討しています。 現在アムステルダムではホテルの宿泊費用の6%を観光税として徴収しています。 これを固定の10ユーロにすることで、格安料金の安宿やAirbnb(民泊)の「お得感」をなくすのが目的です。 さらにAirbnb(民泊)に年間60日の上限を設けることで、商業的なホテルビジネス目的に利用されないようにする政策を導入するとしています。 ホテルやAirbnbから徴収される観光税は市内観光地の整備に使い、アムステルダムの住民にとっても住みよい街にするのが目標ということです。 日本の観光公害への対応ヒント 観光マナーについて啓蒙 日本はこれまでよくも悪くも単一民族国家で、外国人が住んだり働いたり旅行に来たりということが珍しいところでした。 近年はそれが急速に変わってきていますが、それに対する対策が遅れていることが多くそのために起こる問題が目立ち始めています。 訪日観光客による弊害としては、静かな環境の寺院や公園などでの音楽や騒音被害、騒いだりゴミを投げ捨てたり踊ったりする、禁止されている場所で写真を撮るなど。 落書きや器物破損などの被害も報告されています。 このような問題については観光客マナー改善のために多言語でリーフレットやポスターを作成することで問題を未然に防ぐ必要があります。 訪日観光客の中には特に悪気はなく、ただ日本のマナーを知らないという理由で迷惑行為に及ぶ人も多いのです。 例えば日本には公共の場所にゴミ箱が少なかったり、あってもリサイクル用のゴミ箱に日本語表記しかないために、どこにゴミを捨てていいかわからないという外国人も少なくありません。 富裕層のバカンス需要をターゲットに 航空運賃が安くなったことで昔は富裕層の特権だった海外旅行が一般人にまで広がっています。 日本は国際的にみると物価が安くなっていてあまりコストをかけずに旅行することができるため、かつて日本の若者がバックパッキングでアジア諸国を旅行したのと逆の現象が起こっています。 世界中の若者が日本に来てくれることはもちろん歓迎すべきでしょう。 けれどもそれはそれとして、マナーが悪い割にはお金を落とさない観光客に悩まされている観光地では富裕層を対象にしたアップマーケット化を図るのが得策といえます。 「クールジャパン」をうたってアニメオタクに来てもらうのではなく、外国の富裕層を対象に滞在型のバカンス需要をねらうのです。 比較的年齢層が高く、日本文化に関心があり、マナーがいい人たちをターゲットにします。 この「バカンス」という概念について、日本人自体がなじまないため、ぴんとこない人が多いかもしれません。 欧米の旅行者は2~3週間のホリデーを静かな地域の1か所でゆっくり過ごすことが多いのです。 海辺や湖畔の町で泳いだり日光浴したり、山の中でウォーキングやサイクリング、バードウォッチングなどのアウトドアを楽しんだりします。 また、景観の美しい街や伝統あふれる建築、アートを鑑賞したり、おいしい食事やお酒を目当てにする人たちも多いでしょう。 ホテルに滞在することもあれば、貸別荘のようなところを借りる人もいます。 このような人たちの需要を満たすための観光地や滞在先を拡充して、それをマーケティングすればお金を落とすが問題は起こさない「上客」がたくさん来てくれるはずです。 観光客を分散するためのマーケティング 上記の「バカンス」目的の乗客が滞在したいところは観光客だらけでごみごみしたホットスポットではありません。 静かで空気がきれいで自然や景観が美しいところです。 このためには訪日観光客に東京、京都、大阪といういわゆる「ゴールデンルート」からはずれ、地方にも足を運んで探索してもらうことが大切です。 かといって、日本のことをよく知らない外国人にとってはどこに行っていいのかがわからず、ガイドブックに載っている場所に行くしかないのが現状です。 日本人がその価値を感じなくても外国人にとってには大きな魅力があります。 その価値を各地が個性を生かしたブランディングでプロモーションする必要があります。 SNSを使ったり、オンラインで多言語マーケティングすることが大事でしょう。 特典を付与したアプリを配って観光目的地や滞在先を紹介、推奨することもできます。 もちろん、その前にそのような場所に外国人を迎える宿泊場所やアクセス、観光施設、を整えることも必要になってきます。 その場合に注意すべきことは日本人がする「観光」と外国人のそれは目的や過ごし方が異なることが多いということです。 1週間単位の長期滞在や個人個人の目的や要望に応じた観光スタイルを用意できるかどうかがカギになってきます。 観光スポットを急ぎ足で見て土産物を買う「もの」観光ではなく、ゆっくりと自分のペースで時間を過ごし、散歩やスポーツなどを楽しむ「こと」観光のための選択肢を提供する必要があります。 このようにして訪日観光客を各地に分散することができれば、現在ホットスポットとなっている京都などの観光公害が少しは緩和されるばかりでなく、地域経済や少子化で衰退しつつある地方活性化の助けにもなるでしょう。 まとめ インバウンド観光は日本にとってまだまだ拡張が見込める産業分野といえます。 これまで日本経済を牽引してきた産業に代わって日本を不景気のスパイラルから救う可能性を秘めています。 けれども世界各地の事例が示すように、観光客は地域に恩恵をもたらす一方で弊害も起こします。 訪日外国人による「観光公害」についてはその対応が遅れていますが、この問題が大きくなりすぎて手遅れとなってしまわないうちに適切なマネージメントが必要でしょう。 【動画】観光公害 オーバーツーリズム 海外の対策事例•

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観光公害は国内外で増加している?3つの具体的事例と解決策をご紹介

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地方創生のための観光まちづくり 1 眠れる宝の発掘 2015年03月02日 小林味愛 1.はじめに わが国は、他国に先駆けて「人口減少・超高齢社会」の危機に直面している。 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2060年の総人口は約8,700万人まで減少し、高齢化率は将来的に41%程度まで上昇する。 こうした傾向は地方部でより顕著であり、東京圏をはじめとした都市部への過度の人口移動も相まって、中山間地域では集落の維持・存続すら危ぶまれる状況にある。 こうした現状を打破していくために、官民の垣根を越えて「地方創生」に関する議論が展開されている。 政府は、昨年12月に、日本の人口の現状と将来の姿を示し、今後の目指すべき将来の方向を提示する「長期ビジョン 」と今後5カ年の目標や施策の基本的な方向等を提示する「総合戦略」を策定し、地方創生をテコとしたわが国全体の活力向上を目指している。 ただし、これらの一国全体で示される「地方創生」に関する枠組みが今後成果を発揮するかどうかは、主役となる各地域が自ら考え、責任をもって課題解決に取り組むことができるかどうかにかかっていると言える。 以上を踏まえ、本稿では地方創成に関する総合戦略において、地域産業の競争力強化の方策として掲げられている「観光」をテーマとし、特に「観光まちづくり」の観点からそのあり方を検討していきたい。 2.観光とは 「観光」という言葉は現代社会では当然のごとく一般的に用いられているが、まずこの「観光」という概念を今一度紐解いてみたい。 「観光」の語源は、学説上は中国の古典『易経』に記載されている「観國之光。 利用賓于王」(國の光を観る。 この点、平成7年の観光政策審議会の答申では、「観光」は「余暇時間の中で、日常生活圏を離れて行う様々な活動であって、触れ合い、学び、遊ぶということを目的とするもの」と定義されており、「観る」という行為に留まらず、「触れ合い、学び、遊ぶ」ことを目的とする様々な活動を含有している。 このように、現在の「観光」の概念は、その言葉に含有される意味が個々人によって多様化していると考えられる。 3.観光に関する地域の課題 (1)時代の変化 ここでは、観光の概念の変化を時代の流れとともに簡単に見ていきたい。 わが国では第二次世界大戦後、高度経済成長を背景に国民の可処分所得と余暇時間が増加し、さらに、高速道路の建設や新幹線の整備をはじめ観光の基盤である交通が発達したことにより、観光が飛躍的に発達していった。 観光の大衆化・大量化を特徴とする団体旅行を中心としたいわゆる「マス・ツーリズム」時代の到来である。 しかし、特にバブル経済崩壊後は、団体旅行よりも個人旅行のニーズが大きくなり、体験型の観光商品の増加など個人の嗜好を反映する商品が求められるようになってきた。 マス・ツーリズムの時代は「有名な観光地」や「大量輸送・大量宿泊が可能な場所」であれば、地域に眠っている「宝」をさほど精査せずとも観光客を集めることが可能であった。 しかし、現在の個人旅行のニーズを満たすためには、その地域の宝の「魅力」を今一度精査した上で、その地域を訪れる動機付けを行うことが極めて重要になってきている。 (2)観光を地域活性化につなげるための課題 観光による地域活性化を図る工程としては、以下のSTEP1からSTEP3までをたどることが考えられる。 しかし、筆者は各地域を訪問する中で、多くの地域において、いずれかのSTEPで行き詰ってしまっていると感じている。 4.宝の再発掘~観光まちづくり~ (1)観光まちづくりの必要性 個人旅行が重視される新しい観光の潮流の中で、地域資源を再発掘し観光客のニーズを掴んでいる地域もあれば、その流れに追いついていない地域も多く存在する。 特に、マス・ツーリズム時代に団体旅行に合わせて発展してきた地域では、廃業した施設やバブル期の匂いを感じさせる閑散とした施設が多く存在する。 このような施設は経営者の手腕の問題として片付けられる傾向にあるが、仮に一施設の経営を軌道に乗せられたとしてもその地域全体の魅力を向上できなければ、その地域を訪れる動機を作ることは困難である。 このような中、近年、全国各地で観光による地域振興を目指す「観光まちづくり」の必要性が盛んに叫ばれている。 例えば、飛騨古川では、旅行コンサルティング会社の(株)美ら地球が中心となって飛騨地域に残る景観、民家、文化等の「里山資源」を活用し、ツーリズムを通じて交流人口・定住人口を増やし、地域の里山資源が継承されることを目指した事業を実施している。 新たに「ハコモノ」を建てるのではなく、地域そのものの良さを見つめ直し、自然(田んぼ、農作業風景等)、伝統文化(酒造り、古民家等)、住民(日常生活)等の地域資源(眠れる「宝」)を活用し、地域の暮らしに触れる観光を実施することにより、活力あるまちづくりを進めている代表事例といえよう。 このように、現在は「観光資源」と「地域資源」とをほぼ同義で捉えて観光地づくりそしてまちづくりを進めることが必要となってきている。 (2)地域が観光まちづくりに取り組む意義 従来、観光は観光客が地域を訪れることによって発生する交通渋滞や風紀の乱れなどのいわゆる「観光公害」が懸念され、地域住民に疎まれる面があったことも否めない。 これは、観光の恩恵が既存の観光業者をはじめとした一部の利害関係者のみにとどまり、地域の住民や観光業以外の業種に携わる人々を含む地域全体がその恩恵を享受できていない、あるいは享受していると実感できていないためではないだろうか。 この点、「観光まちづくり」の仕組みは観光による経済効果のみならず、住環境としての地域の維持・改善にも寄与するという、まさに観光の恩恵を地域全体で享受する鍵といえよう。 というのも、「観光まちづくり」は、既存の観光業者のみでなく、行政、住民、商店街、農業事業者、地域のNPO等多様な主体が参画する取り組みであり、合意形成の過程においてそれぞれの意向が少なからず反映される仕組みとなっているからである。 その上で、地域が観光まちづくりに取り組む意義としては主に以下の点が考えられる。 ・観光による経済波及効果 ・地域の問題意識(危機感)を共有し自ら作り上げていくことによる地域への刺激 ・地域を観光的視点から構築し直し競争力を強化することによる地域の特性・魅力の向上 ・観光的視点のみならず「まちづくり」の視点を入れることによる住環境の改善 このような地域全体にとっての意義を地域ごとに明確に示すことにより、「観光まちづくり」の参画者を増やす必要がある。 (3)宝の再発掘(観光まちづくり)の方法~多様なステークホルダーの協力の必要性~ 地域に眠っている「宝」は、観光の専門家であれば簡単に発掘できるという類のものではなく、まずは地域の住民が発掘しなければ気づかないものが多くある。 例えば、筆者が会津若松で打ち合わせを行っていた際、地元の方々が「この建物は山川捨松が住んでいた場所だ」との話をしてくださり、全く観光資源とはなっていない建物にそのような眠れるストーリーがあることに驚いた。 これはあくまでも眠れる宝の一例に過ぎないが、このように、地元の人々にとっては身近すぎて観光の対象として認識されておらず、特に地元の人々から教えてもらわなければ外部の者はまず気づかない地域資源も多く存在する。 このような眠れる宝は、もちろん街中にも存在するが、いわゆる里山に存在することが多々ある。 地域にある自然・文化、地域独特の田園風景、里山にまつわる昔話やお祭りが代表例であろう。 したがって、地域において観光資源を発掘するためには、客観的な評価を行う外部の観光専門家や既存の観光業者のみならず、前述のとおり地域の住民や観光業ではない他の業種に携わる人々等地域の多様なプレーヤーの参画・協力が不可欠になってくる。 これは、住民参加・合意形成というまさに「まちづくり」の手法そのものといえる。 5.おわりに~「外もの」が参画する勇気と「外もの」を参画させる勇気~ ここまで観光まちづくりの必要性を述べてきたが、観光まちづくりは多様なステークホルダーが参画するため、当然、合意形成に時間がかかるとともに具体的な合意形成自体も極めて困難な取り組みといえる。 まだまだ成功事例が少ないのは、一般論を理解されても、実際に動くまでに時間がかかったり、あるいは具体的な行動まで伴わない抽象的な議論で終わってしまったりすることが多いからであろう。 もちろん、地域リーダーをはじめ「地域の中」からこのような取り組みを始めることが重要なのは言うまでもないが、やはり「外もの」にしか出来ないことも存在する。 客観的な視点からの評価はもちろんであるが、そのような取り組みを通じて地域の多様なステークホルダーを組織化していくコーディネート役も利害関係の少ない「外もの」だからこそ出来る役割だと考えられる。 筆者も「東京もの」として煙たがられることも多々あるが、真剣に向き合えば向き合うほど、最終的には「想いは通じる」と実感している。 「地域をつくりあげる」ことや「地域の意思決定をする」ことは当然その地域に委ねられるべきことであるが、そのきっかけをつくるために煙たがられることを恐れずに「外もの」も地域の取り組みに参画することが必要ではないか。 地方創生の取り組みとして、地域にお金をばら撒いたりトップダウン方式の施策のみではこれまでと何も変わらず、持続可能な仕組みを構築することは困難である。 「外もの」が傍観者とならず地方創生のために汗をかくこと、そして、その「外もの」を参画させる地域側の勇気も、今求められていることではないだろうか。 有志共立東京病院(現東京自慈会病院)の看護教育所の創設に尽力。 慈善活動家。 経営コラム カテゴリー別 業務別• 産業別• 株式会社日本総合研究所 The Japan Research Institute, Limited.

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訪日客の急増 分散化で観光公害を防ぎたい : 社説 : 読売新聞オンライン

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観光公害防止を呼び掛けるの/2016年撮影。 においては、、登録直後に見られる過度の訪問者数の増加が顕著化した。 例えばでは前述のほぼ全ての事象が報告されている。 では登山者増加によるを危惧し、その抑制を講じることが登録条件の一つとされ、(平成28年)2月までにへ対応策提出が求められていた。 最終的にユネスコ世界遺産への推薦を取り下げたも、イコモスによる現地視察調査のレポートで、慢性的な交通混雑が及ぼすへの影響を指摘され、「不登録」を勧告された。 や2010年代後期に急増した観光客のの悪さ(文化財・環境保護地区における区域への侵入やと等)が問題になっている。 とりわけ、文化財へのや不適切な場所でのなどといった行為は、現地住民やでそれを知るにとって許容しがたい蛮行であり、強い反感を生み出す原因になってしまっている。 ただし、を動機にそれらを行う者もいて、この場合はの犯行であって観光とは関係ない。 このほか、需要が伸びつつあるでのとのトラブルも懸念されている。 の「哲学の木」は、美しい畑の景観の中に立つ見栄えのする(イタリアポプラ)の古木で 、美瑛町の観光地としての知名度を向上させる存在となったが 、その実態はいつ倒れてもおかしくない老木で 、耕作期に倒れた場合の経済的損害は、土地所有者にとって無視できないものであった。 しかしそれでも遠くから来た観光客が「この木を楽しんでくれている」ということで処分せずにいたところ 、勧告を無視したマナーの悪い観光客による畑への侵入と踏み荒らしが目に余るようになり 、いくら注意しても後を絶たない事態にまで陥ったことで 、(平成28年)2月24日、土地所有者は悩んだ末にやむなく木を倒すに至った。 報道ではしたことになっているが 、伐るまでもなく簡単に倒壊した という。 この件に関して観光公害に当たるのは、観光客が耕作地を踏み荒らし続けたことと、土地所有者の好意が踏みにじられたことに尽きる。 そのほかには、当初の報道の誤りが正されないことによる齟齬が大きい。 では、の年間観光客数が過去最多の5,684万人に達したことを受け、翌に宿泊施設の積極誘致の姿勢を示し、その後も訪日外国人の増加が続いたこともあって、客室数は当時の約3万室から、現在で1. 5倍以上に当たる約4万6,000室に増えたが、その反面、市中心部の急激な高騰や、観光客らによるゴミのポイ捨てや騒音などによる周辺住民とのトラブルも顕在化し(後述)、2019年には「市民の安心安全と地域文化の継承を重要視しない宿泊施設の参入」は望ましくないとして、事実上新規の宿泊施設の開業に歯止めを掛ける方針に転換するに至った。 ほかには、観光客の過度な集中を避けるように、観光場所の分散や時間・時期の分散などの取り組みもすでに実施している。 問題が長期化する中で観光客に対して様々な手段での呼びかけが行われてきたが、解決には至っておらず、現在はを活用した「共存」と「通報」の2つの方法が試みられている。 「白い川」と形容された光景/2001年当時。 スペイン [ ] の一大観光都市であるには、2010年代後期の時点で年間約3200万人の観光客が訪れる一方 、それを受け入れる約7000軒の違法があるといわれており 、ホテルの経営に影響が出ているほか 、安価な違法民泊によってバルセロナの観光収入も少なくなってしまうことが問題になっている。 加えて、違法民泊への参入者によって地価や家賃などが上昇する事態となっている。 イタリア [ ] のでは、2010年代後期の時点で年間約2200万人の観光客が訪れ 、地価や家賃の高騰、ホテルの増加による住宅エリアの縮小化などが発生している。 また、ヴェネツィアでは巨大が寄港して観光客が2~3時間程度観光をするスタイルが多く、地元では混雑などの負担が生じる割に観光客の滞在時間は短く宿泊地にもなっていないため、稼げないとして住民の不満が出ており、巨大クルーズ客船の乗り入れの制限が議論されている。 サウジアラビア [ ] がのを有することから、が大挙押しかけることでが乱れることを嫌い、観光客の入国を制限している。 中南米 [ ] にあるの遺跡都市では、入域を2017年に午前と午後の二部制にしたが、観光客の増加に歯止めがかからず、2019年1月から時間帯をさらに細分化し、上限を4時間とした。 南東のは、2018年8月、滞在上限日数を30日間と従来の3分の1に短縮した。 また、やの孤島でも入域制限を求める議論が起きている。 この造語は「ユネスコによって殺される」という意味 だというのであるが、ここに示したように "-cide" には「~によって殺される」「~による殺し」という語意は無く、従来の語意の通りであれば「ユネスコを殺すこと」「ユネスコ殺し」の意になってしまうため、合成語として乱暴な造りではある。 オーバーツーリズム [ ] 過度な観光客の集中は「 オーバーユース cf. 」ともいうが、これによって観光地へのが懸念される事態の生じることがあり、これを指して「 オーバーツーリズム(: )」ともいう。 例えば21世紀初期、のに関して、ユネスコやは登録条件として、観光客抑制案の提示を対象物件の管理者に対して求めるようになった。 の登録物件の中から一つ例を挙げるなら、の登山者数抑制とその実効性・監視体制が求められている。 ほかにも、• 狭い道で混雑しているなか、平気で食べ歩きをする• 日本の厳しい対策に馴染みのない観光客による、ゴミのや不が目に余る• 施設内の敷地や商店と、やの区別がつかない観光客が、民家や私有地にして勝手な振る舞いをする など、様々な問題が噴出している実態が明らかとなった。 脚注 [ ] [] 注釈 [ ]• 従来のものの破壊を伴わない開発はあり得ないが、その時代、その社会、その地域の、許容限度というものが自ずとあり、それを超えれば拒否反応が当然に起こる。 その原因が観光の場合、その弊害は観光公害といえる。 的観点からは、文化財を公開することは必ず経年劣化を伴うため、非公開が最良の保存法である。 とは言えその選択肢が社会に支持されないのは自明で、だからこそある程度の傷みを覚悟の上で公開されるものは公開される。 しかしながら、社会通念上許容されるであろう想定限度を超える傷みは問題視される。 その原因が観光の場合、その弊害は観光公害といえる。 富士山は以前より山頂トイレからの屎尿垂れ流しによる不衛生さと斜面に堆積したによる景観阻害が世界遺産登録への障害の一因とされていた。 現在は環境配慮型トイレに変更されている。 出典 [ ]• 15 Jun 2018• PHP Online 周知. 2015年4月28日. 鎌倉版2013年5月17日号. 新井克弥 2015年9月10日. Business Journal(). 2015年6月7日. 2014年9月18日. 2015年12月7日. Pieces of time(公式ウェブサイト). 中西敏貴. 2019年5月5日閲覧。 北海道新聞社. 2016年2月25日. の2016年2月28日時点におけるアーカイブ。 2016年2月26日閲覧。 コトバンク. 2019年5月5日閲覧。 毎日新聞. 2019年11月20日. 訪日ラボ 2019年7月2日. 2020年6月25日閲覧。 記者 山田裕規 2019年6月26日. 2019年6月30日閲覧。 「南米で観光公害 名所に人殺到/マチュピチュ 入場制限厳しく/産業振興 ひずみ生む」『』2019年2月15日(アジア・グローバル面)。 公式ウェブサイト. ジャパン・ワールド・リンク. 2019年5月5日閲覧。 2019年3月14日. 2019年5月5日閲覧。 参考文献 [ ] ロン・オグレディ 著 、中嶋正昭 翻訳 『アジアの観光公害』教文館、1983年、137ページ。 関連項目 [ ]• UNWTO()• 外部リンク [ ]• 太田隆之.

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