スイちゃん歴代写真や卒業は2019？年齢＆本名やグッドドクターは
「おそよう」 フェルがしばしの惰眠から、鼻腔をくすぐるよい匂いにつられて起き上がると、飯の準備をしていたムコーダが振り返らずにトゲのある声で挨拶を返してきた。 はて、と首をかしげる。 なにかあったのだろうかといぶかしむが、ムコーダの手元からはなにやらを炒めている香ばしい匂いがして鼻と腹を刺激する。 己は寝ていただけでなにもしていないのだから原因は自分ではないだろうと結論づけて、ムコーダに近づく。 いつも周りをちょろちょろ遊んでいるスイの姿が見えないので尋ねると、ぶっきらぼうに友達のところだと返してきた。 ジト目でじっと見られる。 視線の意味がわからないが、スイがいないのであれば、今この場にふたりだけということか。 火元に向き直って料理を再開するムコーダに近寄る。 鼻先をその首筋に近づける。 朝飯の後からずっと料理を続けていたのであろう、香ばしい、甘い、辛いなどの美味しそうな匂いがそのうなじから流れてくる。 黒く短いその髪に鼻先を埋めたら、ようやくムコーダ自身の匂いがしてフェルは大きく息を吸い込んだ。 「コラ、料理中。 」 つつかれたと思ったのか、ムコーダが無造作に首を振る。 かまわずに黒髪に鼻をこすりつける。 そのまま前足でその腰を引き寄せた。 「？？？」 引け腰になるムコーダの、頼りないその胴回りを撫でる。 混乱している様子を無視して、べろりと舌を出して耳の後ろを舐めた。 「～～～！」 ムコーダがびくりとしばし固まった後、菜箸を置いて、スッと調理器具の火を落とした。 振り返らず、フェルの鼻先に向けてベチッと平手を放つ。 [jump:2] TYPE A：あえて受けよう、スパダリフェル様 [jump:3] TYPE B：我に手を出すなど1000年早いわ、俺様フェル様 [jump:4] TYPE C：おっ察しがいいぞ！反省フェル様 [newpage] [chapter:A：あえて受けよう、スパダリフェル様] スピードもなにもない、押しのけるようなそれをフェルは避けずに受け止めた。 鼻先を塞ぐ、よい匂いの手のひらは程よく弾力があってしっとり温かくてフェルの嗅覚を刺激する。 なにやらの香辛料と、肉と、葉と、ムコーダ自身との渾然一体となった匂いは胃の腑を刺激し、こらえられずにチラリと舌を出してその手のひらを舐めた。 「～～～っ！！」 咄嗟に手を引き剥がしてムコーダが腕の中から抜けようともがく。 しかしフェンリルの腕から逃げることなど叶わず、ただジタジタと足踏みすることしかできなかった。 フェルに舐められないようにか、顎の下から押しのけようとするその手をかわして肩越しに身体を顎で押さえ込んだ。 折れそうに薄い。 ムコーダの首筋や鎖骨から、手のひらと同じようないい匂いがしてフェルは鼻を鳴らす。 びくりとその身体がこわばった。 『なんだ、嫌か？』 真っ赤になりながらも仏頂面を崩さないムコーダを見る。 こうまでしてもほだされずに機嫌がわるいということは、原因は己なのだろう。 はて、なにかしたかと己の行動を振り返るが、朝飯を食って寝ていただけだ。 であれば状況を鑑みる。 今、この場にはスイがいない。 トモダチの所だという。 あんなにひとりで遊びに行かせるのを心配していたのに。 そういえば、二度寝前にスイに遊びをねだられていたのを思い出した。 面倒くさくて構わなかったらどこかに行ってしまった。 ああ、そうか『なにもしない』のが悪かったのか。 『そう邪険にするでない、一人にして悪かったな。 』 「はああ？！俺がなんで怒ってんのかわかってんの？」 ムコーダがやっと口を開く。 『わかっておるわ、スイの事だろう。 』 「……わかってるなら今後はあーゆーことしないこと！」 『努力しよう。 』 ほんとかよ……と胡乱な目でムコーダが睨む。 イマイチ信じられないんだよな……とブツブツ呟くムコーダの、突き出された下唇をぞろりと舐めた。 ムコーダが泡を食ったように慌てるのがすこし愉快で、笑みを喉の奥で押し殺しながら口を吸った。 しばらくじっくり吸い、ようやく放すとムコーダが息も絶え絶えに恨めしげに見る。 「……絶対反省してないだろお前……」 『ふっ、さあな。 』 ポコポコと胸元を叩いてくるのをそのままにして、フェルはムコーダの額に鼻先を押しつけた。 END [jump:1] はじめに戻る [newpage] [chapter:B：我に手を出すなど1000年早いわ、俺様フェル様] 蚊でもとまりそうなゆっくりとした平手を、ひょいと顔をそらして避ける。 むっと口をとがらかしてムコーダが不満げな顔をする。 鼻で笑ってその足元を軽くすくい上げた。 バランスを崩したその身をくわえて獣舎に運ぶ。 ニンリル様の眷属たる我に手を出そうとしたのだ、その行為の報いを受けてもらおうか。 いままでフェルが寝っ転がっていた獣舎の布団に転がされて、ちょっとぬくいななんて思ってしまったムコーダだが、フェルがそのまま覆い被さってきたので慌てて顔の前で腕を交差して防御態勢に入った。 『おい、腕を避けぬか。 』 「……」 無言で抵抗する。 鼻先がムコーダの腕の隙間にねじ込まれようとするのを一生懸命ガードする。 牙をたてようとはしないが、濡れた鼻がこじ開けてくる。 舐められるかもしれない。 どうしてもガードを解こうとしないムコーダに、呆れたようにフェルが言った。 『なんだ、意地っ張りな奴だな。 』 はーー？！こいつまったく自分悪くないっておもってんな！？ ムコーダは腹を立てる。 先ほどまではどーせ言ってもわからないだろうし、などと半分諦めに似た境地であったのだが、まったく悪びれないその様子に胃のあたりからムカムカと怒りが湧いてきた。 押さえ込まれていた下半身が少し緩んだ瞬間に、ザッと身体を抜いて両足でふさふさの首回りを挟み込んだ。 カニばさみである。 ぬおっとフェルが声を上げて首を振るが、ガッチリ固めているのでなかなか抜けない。 普段フェルに乗って下半身強化されてるんだからな！とムコーダは鼻息も荒く力を込める。 体力が無限にも近いフェル相手なのだから、ほんのわずかな時間しかできない抵抗だろうとはわかっているが、ふぎぎぎぎ、と歯を食いしばって首を振るフェルに耐える。 無為な戦いを続けていると、ふたりの顔に影が差した。 はっと顔を上げると、宿の従業員が、替えの藁と箒を持ってこちらをのぞき込んでいた。 やがて、一礼するとそのままスススと後退して視界から消える。 「や、っちょ、ちが、ちがいますーー！！ちがいますからー！！」 なにが違うのだと、叫ぶムコーダを見下ろしてフェルは息をついた。 その晩の、フェルの椀が妙に葉物だらけだったことは言うまでもない。 END [jump:1] はじめに戻る [newpage] [chapter:C：おっ察しがいいぞ！反省フェル様] 平手というにはゆっくりしたそれを鼻っ面に受けて、顔を押しのけられた。 口を引き結んで無言である。 フェルははて、と首をひねる。 はたして己はなにかこやつにしただろうか？と考えるが、先ほどまでただ寝ていただけだ。 何かしようにもできるわけがない。 だがしかし、現実に今ムコーダは機嫌が悪そうな雰囲気で腕を突っ張ってくる。 その頑なさに、抱えていた腰を離した。 ムコーダがジト目で見上げてくる。 今こやつから聞き出すのは至難の業だろう。 朝飯までは普通であった。 そのあとのことを改めて思い出す。 そういえば、二度寝をする前にスイに遊びに誘われていたのを無視してしまった。 そして、今スイはトモダチの所だという。 ああ、そういうことか、と額を押さえる。 以前、スイが森で行方不明になった際に、たるんでおるのではないかと言うと酷い目に遭った。 たしかに、少し悪かったかもしれぬと思い至る。 同じ従魔ではあるが、強さはあれどまだまだ子どもであった。 この間も街で行方不明になったばかりであった。 あれは肝が冷えた。 スライムなぞ放っておいても勝手に育つと思っている己でも、行方しれずは困る。 気がはやり焦りが生じる。 なによりムコーダが心配で気もそぞろになりオロオロと取り乱す姿はあまり心地よくない。 ああいう思いはあまりしたくない。 『……その、悪かった……』 耳を垂れさせ、反省してしょぼくれるフェルを見て、ムコーダがふうと息をついた。 言葉を交わさなくても、どうやらわかってくれたらしい。 もうちょっと早く気がついてくれたら良かったのにな、という言葉を喉に押し込め、フェルに近づいた。 普段些事など我関せずでふんぞり返っているフェルがしょぼくれた姿はあまり見たくない。 なんだかんだ言っても惚れた弱みもあるのだ。 「……次からは、俺が手を離せないときはちゃんとスイの面倒みてくれよ？ ほら、ご飯食べてスイ迎えに行こう？」 鼻先にキスを落とす。 ようやく口をきいてくれたムコーダに、フェルは尾を大きく振った。 END [jump:1] はじめに戻る.
次の
