いせ ひでこ。 光が溢れるアトリエで、命の輝きを描き出す。絵本作家・いせひでこさんの仕事場訪問

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いせ ひでこ

この絵本を描いた人は、右目がほとんど見えない。 見えなくても絵は描けるんだなと驚いた。 そうではなかった。 見えないからこそ、描けるものがあった。 スケッチブックを持って旅をする画家を描いた「絵描き」という絵本の一場面。 『きょうは 山焼けの 赤をもらった』 C いせひでこ作『絵描き』理論社 「きょうは 山焼けの 赤をもらった」という文。 中学校時代の掃除の時間、べランダから見た夕焼けがパッとよみがえった。 誰かに見せたくて友達を呼んだけど、「へえ、きれいだね」とろくに見もせず行ってしまった夕焼け。 どきどきしながらページをめくると、立ち枯れのひまわりの絵。 「こわいゆめ みてるみたいだ」と主人公が走り去っていく。 幼稚園のころに気味悪く見上げたひまわりや、どことなく怖かった押入れを思い出した。 ひまわりが怖いなんて、自分だけかと思っていたのに。 絵本を閉じて呆然。 13歳で東京に引っ越し、東京芸術大学でデザインを学び、絵本作家を志した。 数々の絵本を手掛け、宮沢賢治作品の絵本化はライフワークとなっている。 絵も文も手がけた絵本には、パリの本造り職人の話「」や、今年出版した、植物園を舞台にした絵本「」などがある。 絵本作家、いせひでこさん(撮影・新田痲里奈) もともとは人の文に絵をつけるのが主だった。 文も書くようになったきっかけは38歳での右目のの手術。 その年伊勢さんは体を壊した。 冬にの手術を受け、夏に「眼が壊れた」。 伊勢英子さんと作家氏の共著「」には、網膜はく離の手術後に「見える風景が一変した」とある。 画家にとっての目の病気は、音楽家にとっての耳の病気のようなものか。 画家としては致命的だろう。 衝撃も大きかったに違いない。 いったい何が起きたのか。 原因は眼の疲労だった。 絵本や新聞連載の挿絵のほか、チラシやポスターなど、毎月多くの仕事をこなしていた。 幼い子供たちを育てつつ、30代の働き盛りでどんどん依頼を受け、休みもなく描き続けた。 時間が足りず、徹夜で描いた。 目の疾患が発見されたときには、すでに右目の網膜が半分以上もはがれていた。

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眼が壊れても描けるものがある、絵本作家・いせひでこの世界(1)(gooニュース)

いせ ひでこ

画家、絵本作家。 1949年生まれ。 13歳まで北海道で育つ。 東京芸術大学卒業。 野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。 『ルリユールおじさん』(2006年、講談社)は講談社出版文化賞絵本賞を受賞、ベストセラーとなる。 宮沢賢治とゴッホの研究、スケッチの旅の出会いや実感から、絵本やエッセイを発表しつづけている。 近刊に『大きな木のような人』、『まつり』、『最初の質問』『幼い子は微笑む』(詩・長田弘)(すべて講談社)がある。 「2020年 『風のことば 空のことば ~語りかける辞典~』 で使われていた紹介文から引用しています。 」 いせひでこのおすすめランキングのアイテム一覧 いせひでこのおすすめ作品のランキングです。 ブクログユーザが本棚登録している件数が多い順で並んでいます。 『ルリユールおじさん』や『大きな木のような人 講談社の創作絵本 』や『ルリユールおじさん 講談社の創作絵本 』などいせひでこの全50作品から、ブクログユーザおすすめの作品がチェックできます。

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Story 3 絵でしか生きられない

いせ ひでこ

情感がこもった温かい水彩画はどこか宮崎駿氏の絵を思い起こさせます。 その宮崎さんは「子供時代に得た何かというのは、決定的な影響力があり、そこには大人の1年間に値するような5分間がある」とかつて語られましたが、この絵本は正に決定的な出会いをした木の本を愛する少女ソフィーの物語です。 そして、ソフィーに出会ったことで父の言葉(「名は残さなくてもいい。 いい手を持て」)を思い出し、これまでの人生を振り返るきっかけを得たパリの製本家のルリユールおじさんの物語でもあります。 パリを訪れた人ならいせさんの情感が匂い立つような美しいパリの街並に心が奪われるでしょう。 絵が素晴らしい上に、簡潔な文章も独特の間を持ち、平行でありながら深い所で繋がっている会話のリズムも心地良く、物語の世界に一気に引き込まれました。 上質で芸術性の高い優れた大人の絵本です。 最初に読んだときには気づきませんでしたが、2度目に読んだら、 少女とルリユールおじさんの運命的な出会いまでの時間の流れが、 左右のページでそれぞれの視点から描かれていることに気づいて感動しました。 本と植物の大好きな少女と、本を大切に修理して新しい命を与える老職人の間には、 出会った途端に通い合うものがありました。 ルリユールおじさんの心には、少女と同じくらいに幼い頃、 同じルリユールだった「魔法の手」を持つ父の仕事に憧れた記憶が焼きついています。 そしてそのときの父の年齢をはるかに越えた今、 「私も魔法の手を持てただろうか」と一人つぶやきます…。 その答えは、おじさんが生まれ変わらせた少女の植物図鑑が、 その後二度と壊れることがなかったこと、 そして成長した少女が、思い出のアカシアの木の前で、 おじさんとの出会いの日のことを思い出すラストが教えてくれています。 大切にしている植物図鑑を直してもらうために ルリユールおじさんを訪ねた少女ソフィー。 本を直す、その手仕事の過程ひとつひとつを つぶさに眺めるソフィーの姿は、 父親の手もとをじっと見つめる 少年時代のルリユールおじさんの姿に重なります。 そして最後に、大人になったソフィーを見て、 本が人の人生をこんな風に繋いだのだ、と 深い感銘を覚えました。 まるで一篇の上質な映画を観たあとのようです。 実際に描かれている絵や言葉以上に、 ソフィーやルリユールおじさんの生活や ルリユールおじさんの父親の時代の様子を 生き生きと想像することができるのは、 ルリユールの手仕事をスケッチするために パリにアパートを借りて暮らした 作者のいせひでこさんの、思いをこめた 絵の力によるものでしょう。 図書館で何度も借りたのち、どうしても 手元に置きたくて購入しました。 本のカバーの下には思いがけない秘密が! ルリユールおじさんから素敵なプレゼントを もらったような気持ちになりました。 大切にしようと思います。

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