じゃあ 君 の 代わり に 殺 そう か 横田。 【FGO】もし第五次聖杯戦争のランサー枠がスカサハだったら?【LINE風SS】

漫画「じゃあ、君の代わりに殺そうか?」ネタバレ!降臨する天使の仮面を被った悪魔!?

じゃあ 君 の 代わり に 殺 そう か 横田

注意事項 ・ネタバレあります。 (プロローグまで) ・監督生は女の子です。 ・自己解釈、独自設定、捏造設定が生えてきてます。 特に鬼滅側の設定が本編と大幅に変わっています。 ・名前ありのモブやオリジナルキャラクターが出てきます。 鬼滅側は本編と直接的な関わりはありません。 ・地雷は自己責任でお願いします。 [newpage] 意識が遠のいた後、口の中に海水が入り込む。 あぶくを吐いた。 塩辛さよりも息苦しさが勝った。 体が動かず呼吸もできない。 至るところから溢れ出す赤い血が上へ上へと流れるのに体は下へ下へと沈んでいく。 命運尽きたとはまさにこのことだ。 復讐に生き道半ばにして見届けることのできなかった自分にはお似合いである。 薄ぼんやりと見える青い海を彩る赤やら黄色やら緑やらのウネウネした塊を地獄への土産がわりに目に焼き付けた。 おや、と思う。 三途の川というもののまるでサンゴ礁のようだ。 鮮やかな魚も泳いでいるから三途の川はもはやサンゴ礁と言っても過言ではないのではないか。 陽気な音楽が流れているような気もする。 太鼓に笛の音、ヴァイオリンにピアノそれから華やかな歌声。 目の前を青い小魚が通り過ぎた。 まるで夢の中にいるようだった。 この世は不条理だったからあの世は幸せなのだろうか、今度はあぶくと共に血反吐を吐いた。 ふやけて消えてしまいそうだ。 ここに肉体が残って、あの小魚たちが自分を食べて、またその小魚たちが食べられて、皆海に回帰するのだろうか。 それはなんと幸せなことだろうか。 頭の中を砂嵐が駆け巡る。 再び薄れゆく意識の中、足が何かに絡めとられる気配がした。 誰かが胴を抱え込んで上へ上へと泳いでいく。 耳元で何か叫んでいる。 体温、鼓動。 柔らかくて滑らかで華奢、ぬめりけがあるものの不思議と不快ではない。 足のあたりは何かが張り付いていてくすぐったい。 迎えにきたのは一体誰なのだろうか。 兄だろうか、叢雲だろうか、それとも萩谷だろうか、おそらく違う。 みんながっしりとしていた。 きっと誰でもないのだろう。 都合の良い妄想だろう。 締まりのない口から嗚咽が漏れた。 ふと見上げると銀糸の隙間から月が覗いた。 薄黒い肌の美しい悪魔がいた。 目が合った彼は紅緒の頭を不器用に優しく抱きかかえた。 そっと胸に顔を埋めて体を預けて、あの不浄の世に想いを馳せた。 ーー地獄に堕ちるならあの鬼も一緒に堕としてしまいたかったなあ。 涙が零れて広大な海に溶けて消えた。 「やべえ。 そろそろ人がきちまうゾ。 早いところ制服を……。 うーん!!! この蓋、重たいんだゾ。 」 もう一度意識が持ち上がると真っ暗闇の中頭上から声が降り注いだ。 ひしゃげた声だ。 何やら蓋と言っている。 確かに薄い壁一枚挟んだあたりから聞こえるし体全体がガタガタと揺れているところからするに今自分は箱詰めされている。 出よう、と判断するに早かった。 外の声が奥の手だ、というやいなか一息吸って蓋を蹴り飛ばした。 小気味良い音がする。 そのまま立ち上がり埃を払った。 硬いものと硬いものがぶつかり合う音とふなあ〜〜という間の抜けた叫び声が反響し、黒い塊が一目散に廊下に飛び出していった。 獣のようだ。 気配が異なるものの一見すると見覚えがないから鬼かもしれない。 いつもだったら追いかけて頸を落としているが、いかんせん刀がない。 あちら側に置いて来てしまったのだろう。 ついでに言うと服装もいつもの隊服ではなく、黒地に紫の刺繍糸で装飾を施した煌びやかな西洋風のゆったりとした服だ。 ベルトのナックルも隊服のものより豪奢だ。 建物の形は円柱状で怪しげに光る石のはめられた棺が至る所に浮いており真ん中には古めかしい鏡が座している。 黄緑色の洋燈が不気味に輝き、厚手のカーテンが窓を覆っている。 隙間から漏れる白い光から察するに今は朝だ。 それにしても暗い上に陰気な部屋である。 しかし昔両親から寝る前に語られたグリム童話の白雪姫の継母の鏡のようだ。 鏡よ鏡鏡さんと聞いてみたくなったが、先ほどの獣を追いかけなければならないのでもう一度この部屋に来たら聞いてみようと決意しながら獣の気配を追った。 獣の気配を辿ると図書館らしきところにいた。 様子を伺うと猫と狸と鼠を掛け合わせたようなちんちくりんな風体で目がギラリと青く耳からも青い炎を出している。 尻尾は鼠のようだが先がポセイドンの三叉槍のように三又に分かれている。 怖かったんだゾ、と言いながら震えている。 小動物を甚振っているようで気が進まないがこの獣は放っておくと危険な気がする。 哺乳類は首を持てば静かになると言うので気配を消して近づき首をむんずと掴んだ。 頰の肉が手の甲に当たる。 またあのふなあと言う珍妙な鳴き声を発し口から火を吹いた。 掴む向きを少し変え手に力を込めてやめさせる。 ふなっと鳴くと体から力が抜けた。 キョロキョロと辺りを見渡し首を傾げた。 ここもここで奇妙な場所だ。 宙に浮いている本がある。 二階建てで木材は樫だろうか。 品の良い紫色のカーペットが敷かれ、やわらかな色味の暖色燈が設置されている。 まるで地獄と言うよりも御伽噺の世界にでも迷い込んだようだ。 三途の川が真っ青な海のようだったのだから地獄が西洋風の屋敷のようでもおかしくはないのかもしれない。 こんな経験もなかなかないので面白そうな装丁の本を手に取った。 手に取ったはいいものの片手が塞がっていて開けない。 残念だが戻すしかないだろう。 でも戻すにももう一本手が欲しい。 どうしたものかと考え込んでいると不意に声がかけられた。 「ああ、やっと見つけました。 君、今年の新入生ですね?」 シルクハットをかぶった西洋風の仮面の男が立っていた。 鍵のついた鏡の装飾をシルクハットと腰にしている。 鏡の奥に黄色い光が点っている。 牛頭、馬頭と言うよりも烏のようだ。 鎹烏の甚太を思い出す。 朴訥として口数が少なかったが仕事のできる良い烏だったとしみじみしていると、彼が焦れたように口を開いた。 「ダメじゃありませんか。 勝手にゲートから出るなんて!」 目を瞬かせた。 確かにそうだ。 死人が勝手にうろついては閻魔大王も困るだろう。 しかし紅緒にも言い分はあった。 「だって、この……火、鼠? が暴れて逃げ出したんですもの。 」 手の中の哺乳類を掲げる。 目を潤ませながらじたばたと踠いている。 仮面の男は珍妙なものを見る目で私と獣を見比べた。 「それでもです。 第一手懐けられていない使い魔の同伴は校則で禁止されているでしょう? 」 腕を組んで呆れたように言葉を続けた。 「まったく。 勝手に扉を開けて出てきてしまった新入生など前代未聞です。 本を片してついてきなさい。 」 小学校の頃の教師を彷彿とさせてげんなりしながら口を尖らせた。 「でもですね、この鼠、手を離すと火を吹くんです。 」 「はいはいそれじゃあ私が持ちますからね。 きちんと本をしまってください。 」 そう言われて獣を渡そうと手を離すと獣は一瞬で廊下側に跳んでいった。 二本脚で立って腕を組む。 器用な芸のできる獣である。 見る人が見れば愛らしいのだろう、悲鳴嶋あたりは絆されそうだ。 尻尾を足の間に巻き込んでぱっちりとした水色の瞳をかっと見開いた。 「お前!! まったく酷い目に合わせるんだゾ。 」 思わずビビっちまったんだゾと小さく呟いてブルブルと首を振り、それを振り払うかのようにキャンキャンと言葉を重ねる。 「サイテーな奴だ。 それから! 俺様の名前はグ・リ・ムなんだゾ!! ネズミじゃないし使い魔でもないんだゾ。 」 反抗的な使い魔はみんなそう言うんですよ、と仮面男は呆れたように言って咳払いをした。 「とりあえず貴方、いいから入学式に」 そこまで言いかけるとグリムがふなあと鳴いて火を吹きつけた。 「こいつじゃない。 この俺様がナイトレイブンカレッジに入学してやるんだゾ! 」 そう言い残して紅緒が来た道を逆走していった。 最初にいた棺と鏡の部屋に行くつもりだろう。 「あ、こら。 待ちなさい!! 」 「へへーん。 待てと言われて待つ奴なんかいないんだゾ! 」 だいぶ遠くまで行っている。 仮面男と顔を見合わせた。 「貴方の使い魔でしょう、なんとかしてください! 」 「そう言われましても、記憶が正しければ先ほど顔を合わせたばかりでして。 」 微笑んで戻しそびれていた本を棚に入れ、あんな動物を飼っていれば忘れはしないはずですけど、と肩を竦める。 仮面男はまた咳払いした。 「とにかく! 追いますよ。 入学式に乱入されたらたまったもんじゃありません。 」 駆け出した仮面男を小走りで追っていく。 途中、緑色の炎が燃え上がっているのを見たが、それは瞬きの間に消えた。 フンと鼻を鳴らした。 ゆっくり移動するとより鮮明に理解できる。 目に映る光景の一つ一つが異常だ。 芝生に噴水、大理石のアーチ。 異国情緒あふれるものばかりで、その癖妙に嵌っている。 それから新入生に入学式、カレッジ。 もしかしたらここは地獄でも何でもなく条理から外れたところにある学園なのかもしれない。 もしそうなのだとしたら、紅緒が意識を失い死ぬまでの一瞬の内に何かが起こりここへやって来たと言うことだ。 シェークスピアもしくはカエサル曰く、賽は投げられた。 ことの成り行きに身を任せるほかないだろう。 どう転んでも面倒なことが起こりそうだ。 そう考えると自然とため息が出る。 ぽっかりとあいた心の隅で自身の運命を呪った。 式場は惨憺たる有様だった。 青い炎が見渡す限り燃え上がり煙が充満し、服を燃やされた生徒が何人もいる。 しかし事件は収束しているようだった。 胸を撫で下ろした。 件の犯人は眼鏡の少年と赤毛の少年に挟まれている。 赤と黒のハート型の特徴的な奇抜な首枷を嵌めていた。 すっかりしょげかえっている。 ふと、眼鏡の少年と目が合った。 青みがかった銀の髪と目の整った容貌で、長い睫毛の彩る目元に黒い化粧を施し泣きぼくろがある。 すらりと手足が長い。 口元に笑みを浮かべているが目には冷え冷えとした光が浮かんでいる。 美しい少年だ。 間違いなく会ったことはないにも関わらず、どこか既視感を覚える。 内心頭を捻っていると仮面男が、 「まったく本当に貴方の使い魔が。 目を離しているからですよ。 」 と言った。 思わず口を引きつらせた。 責任逃避だ。 事なかれ主義に辟易とする。 「だからこんなの知りませんてば。 」 仮面男は白々しくもそうでしたっけ、と言い咳払いした。 「それではこちらの狸くんは外に放り出してしまいましょう。 鍋にしたりはしません。 私、優しいので。 」 そう言うとグリムの首枷を持った。 するとグリムが四肢をがむしゃらに動かし始める。 ふなあとまた鳴いた。 「嫌なんだゾ。 オレ様は、オレ様は……。 ナイトレイブンカレッジに入って、」 感極まったかのようにしゃくり上げる。 「いつか絶対大魔法士になってやるんだゾ〜〜!!! 」 そう叫ぶ否やグリムは体の内側から光り出し消え失せてしまった。 「さて、次は貴方の番です。 寮分けがまだなのは君だけですよ。 早く鏡の前へ。 」 唇を噛み、言われるがままに鏡の前に立った。 すると、目元に黒く派手な装飾のあるのっぺりとした白い仮面が黒々とした鏡の中に幽鬼のように浮かび上がる。 驚いていると、白い仮面が口を開いた。 「汝の名を告げよ。 」 沼の底を彷彿とさせるおどろおどろしい声だ。 大人しく自分の名前を口にする。 「東雲紅緒です。 」 「シノノメ・ベニオ……。 汝の魂のかたちは……。 」 そう言った途端黙りこんだ。 考え込むように眉にしわを寄せ、 「わからぬ。 」 と言い放った。 私よりも唖然とし固まったのは仮面男である。 すぐさま叫び声を上げる。 「なんですって。 」 「この者からは魔力の波長が一切感じられない……。 色も、形も、一切の無である。 よって、どの寮にもふさわしくない! 」 周囲のどよめきが大きくなる。 私と同じ洋装をした人々の矢のような鋭く困惑の混じった視線が飛んでくる。 目を伏せた。 言ってはなんだが才能がまるきりないと言われたのは今日が初めてだ。 昔から物覚えは良かったし要領もよく器用だったのでやることなすこと大体うまくいった。 複雑と言えば複雑だ、こんな面白いこともなかろう。 あの世での土産話としてはこんな笑い話もそうない。 新鮮な気持ちで驚きながらも闇の鏡を見つめ返した。 「魔法が使えない人間を黒き馬車が迎えにいくなんてありえない! 生徒選定の手違いなどこの100年ただの一度もなかったはず。 一体なぜ……。 」 仮面男はそう言って口を結んでから考え込み、そしてため息をつくと、 「とにかく、少々予想外のトラブルがありましたが入学式はこれにて閉会です。 」 と言った。 寮長と呼ばれていた六人と呼ばれなかったらしいマレウスという寮長の代わりにやってきたらしい小柄で独特な気配の少年が他の人々を引き連れて去っていった。 先程の眼鏡の彼も寮長らしい。 胡乱な笑みを浮かべながら上品な所作で他の生徒を率いていった。 雑踏が引くと凪いだように部屋が静まりかえる。 仮面男は私の方に向き直り、さて、大変残念なことですが、と言い置いて、 「貴方には、この学園から出て行ってもらわねばなりません。 魔法の力を持たないものをこの学園へ入学させるわけにはいかない。 心配は入りません。 闇の鏡がすぐに故郷へ送り返してくれるでしょう。 さあ、扉の中へ。 強く故郷のことを念じて………。 」 と言い闇の鏡に呼びかけた。 「さあ闇の鏡よ! このものをあるべき場所へ導きたまえ! 」 闇の鏡は沈黙した。 仮面男が咳払いして、同じ文言を繰り返そうとしたとき、 「どこにもない。 この者のあるべき場所はこの世界のどこにも無い……。 無である。 」 残酷にもそう言い放った。 目を伏せた。 私は死人なのだから至極当然な話である。 無論それを知らない仮面男が驚愕の声をあげ、ぶつぶつと何事か呟き、私にまた目を合わせた。 「そもそも貴方どこの国から来たんです?」 「長野の北佐久郡志賀村です。 」 「聞いたことのない地名ですね。 私は世界中からやってきた生徒の出身地は全て把握していますが、そんな地名は言いたことがない。 一度図書館で調べて見ましょう。 」 そう言い、また先程の図書館に戻った。 おおよそ想定通りにことが運んでいる。 きっとこちらのどこにも長野県北佐久郡志賀村なんてないだろう。 「やはり、ない。 」 淡々と仮面男が口にする。 戻る道中、彼はディア・クロウリーと名乗った。 ここはツイステッドワンダーランドのナイトレイブンカレッジという四年制の学校で彼は学園長だそうだ。 ーー志賀村は地図にもなく歴史上にも残っていない。 宇宙もしくは異世界からやってきた可能性が高いとクロウリーが口にする。 異世界とは何かと聞くとここではない世界だと返された。 アリス物語のようなものかと合点する。 何もかもがねじれ曲がった空想寓話、常識さえも当てはまらない。 夢物語は娯楽として好んでいたが現実のものとしては受け入れがたいものがある。 鬼という超常的なものを狩る仕事をしていた割には現実的なものの見方をしていた。 「貴方、ここに来るときに持っていたものなどは? 身分証明になるような、魔導車免許証とか靴の片方とか。 」 首を振るとクロウリーは大仰なため息と共に恩着せがましく困りましたねえと言い、魔法を使えない者をこの学園においておくわけにはいかないが、保護者に連絡もつかない無一文の若者を放り出すのは教育者として非常に胸が痛むので学園内に今は使われていない昔寮として使われていた建物をしばらく宿として貸し出すと言われた。 「その間に貴方が元いた場所に帰れる方法を探るのです。 」 そんなものはないという暇もなく矢継ぎ早に、 「あーなんて優しいんでしょう、私! 教育者の鑑ですね。 では善は急げです。 寮へ向かいましょう。 少し古いですが、趣のある建物ですよ。 」 と言ってその建物に案内された。 そこは無駄に広く、物置の方がよっぽどマシである。 そう口にすると減らず口ばかり叩くなと叱られた。 口が減らないのはお互い様ではないのかと思いつつ中に入る。 「ここであればとりあえず雨風は凌げるはずです。 私は調べものに戻りますので適当に過ごしていてください。 学園内はウロウロしないように! では! 」 クロウリーはそう言いあっという間に消えていった。 もう一度建物を見る。 あちらこちらに蜘蛛の巣が貼られ、壁が煤けている。 しかし建築としての趣味は悪いものではない。 ガーゴイルの装飾も印象的で深緑の屋根の色自体は良い。 純粋に手入れがなってないのだ。 うんざりしながら中に入るとそれはそれはもう酷い有様だった。 電気が通っているのは不幸中の幸いだ。 いっそ雪景色かと思うくらいに積もった埃に、カビの生え虫食い腐食が進んで使い物にならなくなっている家具。 洗面所と風呂場、お手洗い、台所は水道自体は通っているものの変な臭いが漂ってきて使えたものじゃない。 掃除のし甲斐があるだろう。 気持ちを切り替えた。 窓を開け、箒と雑巾とバケツを手にとる。 カビが生え壊れた家具を一階の一室にまとめ、塵埃蜘蛛の巣を高いところから順に掃き出しちりとりで取って窓から捨て、ありとあらゆる物を磨き上げると外から雨の気配がした。 急いで全ての窓を閉め、錠をかける。 壁紙は剥がれており天井や床は穴が開いているので雨漏りもする。 急に降り出す雨を恨みながら穴の真下にバケツを置いた。 欠伸をすると薄汚れた毛布を体に被せ体を丸め込むと目を閉じた。 そこは病院だった。 白い看護服を着た女を老人が貪っている。 窓が割れ医療器具や薬瓶がぶち撒けられ資料らしきものが散乱していた。 至るところに血や体の断片が飛び散り腐った匂いがする。 月明かりが互いの姿をあらわにした。 老人が口を開く直前、頭と体が切り離された。 男は喚き呪詛を吐き塵と消えた。 鯉口の鳴る音と共に視界が暗転する。 「おーい、おいお前さん。 ひでえ顔してんなあ。 」 目の前にいたのは白く透けた人型の化物だった。 瞠目し体勢を立て直し腰の刀に手を伸ばすも空振る。 刀はあちらに置いてきていた。 一息ついて動転した頭を落ち着かせる。 こちらは常理に反した世界だ。 幽霊がいても可笑しくはない。 それにしても気配に気付かないなんて柱失格だ。 口を結んだ。 幽霊はヒーヒッヒッヒと笑った。 「久しぶりのお客様が呑気に昼寝してると思ったらさア。 」 「驚かそうと見てみたら魘されてんでびっくらこいた。 」 「ま、それはさておき俺たちずっと新しいゴースト仲間を探してたんだ。 お前さん、どうだい? 」 ため息をついて床に胡座をかいた。 「結構。 」 「つれねえなア。 」 「それにしてもお前さん思ったより驚かねえなあ。 」 「ここに住んでた奴らは俺たちを怖がってみーんな出て行っちまったってのに。 」 理由を説明するのは難しい。 首を傾げながら茶を濁す。 「……まあ、いろいろあったから。 」 「こーんなとこに来てんだもんな。 」 そうヒッヒッヒと笑う。 深追いはされたくなかったので安堵する。 思いの外話の通じない幽霊ではなさそうだ。 他愛のない世間話に興じていると雨音に混じって窓を叩く音がする。 目が覚めた時から聞こえていた。 もう少し放っていてもよかったが窓を壊されては堪らない。 音のする方へ行って窓を開け、濡れ鼠を部屋に入れると手早く錠を閉めた。 グリムが体を震わせ水を跳ね散らかす。 顔を顰めた。 これだから動物は嫌いなのだ。 「ぎえー! ひでえ雨だったんゾ! チャームポイントの耳の炎がもう少しで消えるところだったんだゾ。 」 しかも言葉を発するし可愛げがない。 もう一度ため息をついて空のバケツに突っ込むと雑巾を取り、濡れたところを拭いた。 グリムがぶなあと鳴いた。 「お前、ニンゲンの風上にもおけないヤローだゾ。 オレ様の扱いが酷すぎるんだゾ。 ちょっとオレ様の事情を聞いてやろうとかそういうのないんか。 」 バケツを押し倒して這い出てくる。 さらにぶつぶつというのを無視して雑巾を片付け手を洗う。 蛇口を捻って水を止めていたあたりでグリムが火を吹く。 「話しくらい聞くんだゾ! 」 仕方なく目を遣り顎をしゃくる。 「お前、偉そうなんだゾ。 」 どの口がいうのだろうかと思いながら聞いた話によると、 「俺様が大魔法士になるべくして生を受けた天才だからなんだゾ! いつか黒い馬車が迎えに来るのをオレ様はずっとずっと待ってた。 なのに……なのに………。 闇の鏡も見る目がねーんだゾ。 だから俺様の方から来てやったてわけだ。 オレ様を入学させないなんてこの世界の損失だってのに、ニンゲンどもはわかってねーんだゾ。 」 ということらしい。 馬鹿馬鹿しい。 勉強なぞどこででもできるだろうに、本当に才能があるのならすでに実力の花は咲いている。 「火を吹くこと以外知らない家畜じゃあねえ。 」 「オレ様は家畜じゃねえんだぞ! 」 「そ。 ていうか、貴方どこから潜り込んできたの? 外に放り出されたんじゃなかった? 」 「そんなこと、オレ様にかかればなんてことねえんだゾ。 」 不法侵入をつい先程果たしたようだ。 不意に笑い声が聞こえてきた。 先程の幽霊達だ。 グリムは悲鳴をあげた。 私の後ろに隠れる言葉にならない言葉を漏らし、恐怖を跳ね除けるかのように首を振ると高らかに、 「大魔法士グリム様はお化けなんか怖くないんだゾ。 」 と宣言し前に出て火を吐いたが目を閉じてから吐いているため全く当たらない。 床と壁が焦げただけだ。 眉を顰めた。 「どこ見てるんだあ? 」 「こっちだこっちだ! 」 幽霊達がニヤニヤとヤジを飛ばす。 「ちくしょー! 出たり消えたりするんじゃねえ!」 部屋がますます煙臭くなっているので、矢も盾もたまらず目を閉じていることを指摘した。 「うるせーっ! オレ様に指図するんじゃねーんだゾ! 」 首をキュッと締め、いいから指示を聞けというとこくこくと頷いた。 相も変わらず目を閉じて火を吐くグリムに指示を飛ばして、気の良い幽霊達に申し訳なくなりつつも勝利を掴んだところで仮面男がやってきた。 「こんばんは〜。 優しい私が夕食をお持ちしましたよ。 ……ってそれは先ほど入学式で暴れたモンスター! 追い出したはずなのになぜここに!?」 事実を脚色しながら説明するグリムに適当に相槌を打って夕食をもらう。 ギリギリ使えそうだった机にトレイをのせ椅子に座り食事を口にする。 グリムがなんで先に食べるのかとかオレ様によこせとかツナ缶を寄越せとか不平不満を言うのを全て無視して完食する。 呆れ果てた表情のクロウリーからティッシュという柔らかいちり紙をもらって口を拭きゴミ箱に捨てた。 食事中の話を纏めるとゴースト退治の様子を仮面男の披露してほしいとのことだ。 クロウリーは涙目になって駄々を捏ねるグリムには自分に買ったらツナ缶をやると言って言いくるめていた。 私も特に断る理由もないので頷いて、先ほどと同じようにやって見せた。 なんてこともない、ただの的当てである。 しかし、クロウリーは酷く驚いた様子で、 「まさかモンスターを従わせることができる人がいるなんて。 実は入学式騒動の時から私の教育者のカンが言っているんですよねえ。 ベニオさんには調教師や猛獣使い的な素質があるのではないかと」 と言った。 自分で言って自分で頷いている。 グリムはツナ缶ツナ缶と騒いでいる。 私は目を逸らしながらクロウリーに、 「そういえば、この……あー、グリムがこの学校に入りたいらしいんですよ。 」 と言うとクロウリーがピタリと動きを止めグリムと紅緒を見比べる。 「なんですって? モンスターが? 」 信じられないと言外に匂わせる。 グリムがそうなんだゾと叫ぶ。 紅緒も小さく頷いた。 クロウリーが唸って顎に指を当てる。 そして、何か閃いたと言う顔で紅緒たちを見た。 曰く、闇の鏡に選ばれなかったモンスターの入学許可はできないし私にもただ居候させるわけにはいかない。 しかし紅緒の魂を呼び寄せたことは学園の責任の一端がある。 そう言ってクロウリーはにっこりと笑う。 「とりあえず当面の宿についてはここを無料でご提供しますが、衣食住についてはご自分で支払っていただかねばなりません。 」 ここまで言うと含み笑いをし、勿体ぶってから学内整備などの雑用をするように言い渡された。 二人一組での雑用係である。 この条件で学内の滞在と、情報収集や学習のための図書館の利用を許可されるそうだ。 グリムが不服を漏らすとまた外へ放り出すと脅し紅緒に目を向けた。 クロウリーは満足げに、 「よろしい。 では二人とも。 明日からナイトレイブンカレッジの雑用係として励むように! 」 と言った。 クロウリーが帰りツナ缶を食べたグリムが眠る。 紅緒は自室から抜け出し一際大きな部屋の窓辺に立った。 腕を組み壁に体重を預けてぼんやりと外を眺める。 雑草が生茂り昔は綺麗であったろう噴水は見る影もない。 ここは昨日までは役目を終えた場所だった。 今日紅緒たちが来たことで歯車が回りだしたのだ。 そっと目を閉じ思い返すのは最期の戦いだ。 お館様の先見の明に預かり、岩水霞氷の柱という重大な戦力を借り受け、鳴柱として私の十年先代も含めれば半世紀もの心血を注ぎ込んで作り上げた隠を含めた隊士の部隊のほぼ全てを賭けた上弦の壱の討伐である。 熾烈を極めたがなんとか頸を切ることに成功した。 しかし、あの鬼の頸を落とした後の記憶がない。 きっと紅緒はそこで死んだ。 お館様は頸を落としただけでは死ぬまいとおっしゃられていた。 頸を落とした後はどうなったのだろうか。 あそこで逃せば時機など来ない。 鬼殺隊の趨勢を占う戦いだ。 逃げられてはいないだろうか。 滅せられたのだろうか。 神に祈る仏に祈る。 ーーどうかどうかあの憎い醜い鬼を野に晒し日に晒し骨の髄まで筋の繊維一つ残らず燃やし果ててください。 それに、だ。 あの時の柱は皆痣が発現している。 皆長くは生きられない。 紅緒もだ。 自身の肩に手を当てた。 風呂に入った時には消えていたが既に常時発現できるようになっていた。 別に命が惜しかったわけではない。 いつか戦地で果てることは鬼殺隊に入る決意をする前に承知した。 むしろこれから生きていくのが辛い。 後長くて七年、どう身を振ろうか。 七年は風の吹き去るような雷の落ちるような刹那のはずなのにどうしてだかひどく長く感じられる。 思えば、家族を失ってからの半生を鬼殺に費やし、多くの人を失いもしたが救いもした。 今までの生に意味はあった、はずだ。 紅緒はそう信じている。 ーーだけど。 更けゆく夜空を憂鬱げに見上げる。 欠けたところのない月が煌々と輝いている。 これから生きていく価値なんてあるのかな。 鬼も狩れない夜を浪費していく私に意味はあるのかな。 ーー父さんも母さんも兄さんも師匠も先生もみんなみんないないのにどうやって生きていけばいいのかな。 あの試験以降、初めて何もせず過ごす夜は溺れそうなほどに長く、初めて夜を恐ろしいと思った。 ゴーストに起こされたグリムとクロウリーから支給された朝食を摂った。 今日の仕事は正門から図書館までのメインストリートの清掃である。 途中、男子生徒に喧嘩を売られ暴動を起こしハートの女王というこちらで特に尊敬を集めているという偉人の像を焦げつかせ、その男子生徒共々放課後に窓百枚拭く罰を受けた他に特に事故も起きず二時ごろには言われた場所の清掃を終わらせ、放課後まで暇になったので図書館に向かった。 ふなふな嫌がるグリムをツナ缶で釣りなんとか図書館までたどり着く。 改めて見ると圧巻の蔵書数だ。 自分の邸宅でも中々の数の本を収集していたと自負しているがそれでもここまで贅沢に持っていなかった。 あまりあちらでは図書館を利用したことがないので比較はできないものの多分帝国図書館と比べても遜色ないのではなかろうか。 感嘆が漏れ自然と目が輝く。 グリムにジロリと見られた。 誤魔化すように咳払いし噛み締めるように進んでいった。 何もかもが見たこともなくて何から手をつけたら良いのか迷ってしまう。 恐る恐る手に取った本は人魚の生態に関するものだった。 そこではたと気がつく。 こちらには人魚が実在する。 グレートセブンの一人、海の魔女も蛸足の人魚だ。 どんな人にも手を差し伸べる慈悲の人だったそうだ。 それはともかく、海の魔女の存在はアンデルセンの人魚姫を筆頭に幻想の象徴たる人魚の実在を証明している。 クロウリーに尋ねてみるとこのナイトレイブンカレッジには人魚の生徒もおり人間化薬を飲んで他の生徒ともに学園生活を送っているらしい。 本の頁を捲った。 人魚は人としての特性と共に魚としての特性も保有し、その特性は本来の魚の生態に依拠するようだ。 基本的にはマグロの子はマグロでサメの子はサメだが、例外的に異なる種類の人魚を生むこともあるという。 所謂先祖返りだ。 海の魔女も一本ビレの王族の末娘だったようだが彼女はタコの人魚である。 これはデオキシリボ核酸、通称DNAという遺伝情報の継承と発現に関わる物質の塩基配列によって決定されている。 こちらでも存在自体は発見されていたことと遺伝法則があることはしのぶから聞いたことがあるがこの二つに関わりがあることは知らなかった。 夢中になって読み進めている間にいつの間にか放課後になっていた。 グリムに尻尾で突かれる。 ちらほらと生徒がいた。 ほうと息をついて席を立つ。 数冊読み終えた本を棚に戻し、読みきれなかった本のうちから特に面白そうなものを五冊借りる。 ほわほわしながら図書館から出ようとすると、突然ぶつかられた。 避けたにも関わらずわざと肩を当ててきた。 別に痛くもなんともないが不快だ、ほわほわが吹っ飛んでしまった。 むっと思って顔を見上げると可愛らしくピコピコ耳を生やしているのにいかついおっさんみたいな面だ。 それも三つ四つもある。 並んでる可愛らしいピコピコ耳を生やすならもっと可愛いしのぶとかかなえとかがいい。 その上、痛いだの落とし前つけろだの煩わしい。 「弁償代で許してあげても構わないぜ、お嬢ちゃん? 」 「グリム、これ持って。 」 「ふなっっっ!!。 だって、お前魔法使えないんだゾ! だからオレ様がやって、」 そうこう言っている間にも詰め寄られ、グリムが犬の獣人に抱え上げられ締められる。 苦しげな呼吸音が聞こえてくる。 火を出すのもままならないだろう。 豹獣人が紅緒の胸ぐらを掴む。 「ホント女みてえな顔だな。 」 豹の獣人がそう言って手を離し殴ろうと拳を握った瞬間犬の獣人ごと昏倒していた。 豹獣人の鳩尾を蹴り飛ばし空で体を捻り背中側に回り込み犬獣人を浮かし崩して足を払い肘を鳩尾に叩き込んだ。 グリムが自由になる。 真っ青な顔をして柱の隅に隠れる。 紅緒もひらりと軽い動きで、もんどりうつ二人と呆然とする二人から距離を取った。 「帰ろうか。 罰則もあることだし。 」 グリムはこくこくと頷いた。 もう一度本を貰うと残った二匹の鳴き声が聞こえてくる。 目線を流して鼻で笑うと顔を真っ赤にさせてペンを振りかざしそうとする。 朝に罰則生徒エースのやったように風やら出してくるのだろうか。 本を抱え込みながら蹴りを片方の手首に叩き込みペンを落とさせるがもう片方は既に石が黄色く輝いている。 一度距離を取って避けながら突貫しようと身構えたが術が飛んでくる気配はない。 見ると、その男は宙に浮いて泡を吐いている。 図書館の目の前にある階段に眼鏡の彼が白く透けた石のついたペンを手に持っていた。 またそれを振ると男は地べたに落ちて苦しげに喉を抑えたまま蹲って失神する。 手首を真っ青な顔で抑えていた男も顔を押さえていた男も腹を抑えた男も眼鏡の彼を見るなり絶句し文字通り尻尾を巻いて逃げていった。 失神した男を置き去りにしてだ。 柱を目前に据えた鬼のようだ。 彼はずいぶん恐れられているのだろう。 獲物を喰らう蛇の顔を貼り付けてこちらにやってきた。 ほうと息を吐き、体勢を戻し震えるグリムに微笑みかけると足に張り付かれ顔を擦り付けられる。 危ないところだったんだゾ、と涙ながらに訴えかける。 本当ですよ、と眼鏡のブリッジをおさえながら彼が言った。 「魔法も使えないのにこんな無茶なことを。 まったく慈悲深いこの僕が来なかったら一体どうなっていたことか。 ああ考えるだに恐ろしい。 」 大袈裟だ。 あの男が喉ではなく腹を抱えて絶倒していただけである。 彼は言葉を続けた。 「さて、この件の対価についてですが……。 」 「対価? 」 「ええ。 まさかタダで助けられたとでも思っていらっしゃるんですか? 」 彼は惚れ惚れとするほど美しい笑みを浮かべた。 そんな話ってないんだゾとグリムが叫ぶ。 今回限りは同感だ。 呆然と彼を見る。 買ったものにお金を払い借りたものは返す、簡単なことでしょう、と清々しく言い放った。 絶句する。 無茶苦茶だ。 「まあ、今日貴方は学園長から罰則を受けているそうですし、明日の放課後で構いませんよ。 モストロ・ラウンジでお待ちしています。 来店なさった時にはアズール・アーシェングロットに取り次いで欲しい、とスタッフにおっしゃってください。 」 そう言い残し、嵐のように立ち去った。 グリムと顔を見合わせる。 「本当にこんなとこに入りたかったの? 」 「想像と違うんだぞ……。 」 倫理観の些か欠けた人間が多いようだ。 ため息をついてオンボロ寮に戻る。 夕方の運命は、至極悪辣で現実的で世知辛いものだった。 本を片付けて食堂に遅れて着くと誰もいない。 待てど待てど来ない。 先に窓拭きをする人物には見えなかった。 ーー逃げられた。 内心頭を抱える。 こんなんばっかじゃん、と思う。 おそらく行くなら寮だ。 グリムを連れて鏡舎へ行く。 あの生徒の姿が見えた。 グリムが怒って追いかける。 エースは逃げた。 途中にいた黒いスペードの化粧を頬にした少年の援助もあり不良少年は捕まえたが、今度は不良モンスターがいない。 不幸にも巻き込まれたスペードの少年と因果応報のエースと共にグリムを追いかけた。 ふなふな言いながら火を吹く。 追い詰められたグリムは食堂のシャンデリアに上った。 逃げるなと叫ぼうが危ないからやめろと叫ぼうが下りる気配はない。 痺れを切らしたスペードの少年もといデュースが大釜をシャンデリアに落としグリムを捕らえた。 シャンデリアも大破したが。 すぐさま怒り狂ったクロウリーがやってきた。 図書館前での暴動には触れられなかったものの、このシャンデリアは芸術的にも魔法史的にも非常に重要なもので稼働源になっているという魔法石も割れてしまい修復も不可能になってしまったのだそうだ。 私たちではとても弁償できるものではなくエースとデュースは退学になるという。 それを回避するには似たような性質の魔法石を持って帰ることができれば退学は免除になるという。 その提案に一も二もなく飛びついた。 闇の鏡を通じてドワーフ鉱山という今は廃山した鉱山に入る。 だいぶ日が傾いている。 二つほど長針が回れば日が沈む。 使われなくなって時間が経っているらしく手入れが行き通っておらずみすぼらしい。 埃っぽい無人の小屋に入ったが手掛かりはない。 ふなふな嫌がるグリムと少年二人を連れて奥にある洞窟に入る。 妙な気配があるもののキラキラひかる鉱石があちらこちらに埋まっており非常に幻想的だ。 一人で来たかったなと思いながら奥へと進んでいく。 途中ここに住むゴーストの妨害にあったがそれ以上の問題はなく魔法石を見つけることに成功した。 しかし、妙な気配の主たる頭をインク瓶に挿げ替えた大男がこちらに襲いかかってきた。 下弦とも見劣りするものの紅緒は刀がなかった。 三人守りながら魔法石を奪取するのは不可能ではないが非常に難しい。 少年たちが及び腰になっているのもあり一時撤退を選択した。 小屋の辺りまで逃げるとあの化け物は紅緒達を見失ったらしい。 少年たちが息を落ち着かせるのを待ってから口を開いた。 「どうしようか。 大したことはないけれど狭いところにいられると厄介だね。 」 いやいや、とエースが息を切らしながら言う。 「どうしようかじゃねーし大したことはあるしお前なんで息切れしねーんだよ。 こっち来る前からずっと走ってただろ? 」 「この距離全力疾走するの僕でもきついぞ。 ましてや紅緒小柄じゃないか。 」 背丈に頭半分の差はある。 アッチでいろいろやっていたとだけいうとエースがいろいろってなんだよと突っ込んだ。 デュースは何やら合点した様子で押し黙った。 「ていうかコイツ、窓拭きに行く前にもおっかねー奴ら四人と喧嘩してたんだゾ。 」 グリムが腕を組んで紅緒を睨む。 エースとデュースもギョッとした顔で紅緒を見た。 「おま、ホントバケモンかよ!? 」 「というかそもそもナイトレイブンカレッジに来て早々こんなに揉め事を起こさないだろう。 」 そう言ってため息をつくとデュースは考え込む。 「退学は駄目だ。 どうにかしないと。 」 「どうにかってどうすんだよ歯立たなかったじゃねーか。 」 死ぬくらいならもう退学した方がマシだとエースが言う。 「それは駄目だ!!! 」 勢いよくデュースが叫び、二人の小競り合いが始まった。 できない、できる、考えなし、なんとかする……。 頭が痛くなってきた。 パン、と手を叩いた。 音が響き渡る。 二人がお互い胸元を掴みながら静止しこちらを見る。 紅緒は笑った。 「私たちが何ならできて何ならできないかまずは整理しよう。 エースは風魔法が得意でデュースは大釜を呼び出すのが得意だったね。 」 「オレ様は火を出せるんだぞ! 」 「そうだね。 それじゃああの怪物はどうだろうか。 殴りかかられると一溜まりもないけれど、頭も回らないし距離を離せば対処できる。 」 そう言って指を鳴らした。 「それじゃあ、こう言うのはどうだろう。 私が引きつけている間にあなた達が魔法石を取りにいく。 最後恐らく気付かれるだろうけど走れば逃げ切れる。 」 ね、と微笑みかける。 温情措置だ。 「はあ? なんで魔法も使えないお前に指図されなきゃいけないワケ? そもそもコイツと協力しろだなんてゼッテー無理。 」 「協力できないのには僕も同感だ。 こんな自分勝手なヤツと合わせられるか。 」 紅緒はもう一度笑みを浮かべた。 「そうなると退学する以外ないけれど、家族に合わせる顔なんてなくなるね。 」 二人とも苦い顔をした。 デュースは唇を噛んでいる。 「まず、私たちは善意で手伝ってるの。 貴方達が退学しようが別段支障はないけれど、こちらにも責任があるから来ているだけ。 退学したいと言うのであれば無理に止めはしないよ。 」 退学したくないんでしょう、と言外に匂わせる。 グリムも知ってか知らずか畳み掛けるように、 「痛い目にあうよりシャンデリア壊して退学する方がダセーんだゾ。 」 としょんぼりしながら言った。 それにコイツ滅茶苦茶コエーんだゾ、という発言は聞かなかったことにする。 二人は顔を見合わせため息をつくと、 「わかったよ。 しゃーねえなあ。 」 「ああここで腹括らなきゃ男が廃る。 」 と承諾する。 重畳重畳と頷いて先ほどの場所へ戻る。 一昨日振りの狩りである。 小物だが得物がない。 一日分鈍った体には丁度いい。 軽い足取りで化物の元へ向かった。 鉱山へ走っていく二人と一匹のタイミングに合わせ拾った小石を怪物に打ち込む。 ものの見事にこちらに意識が向かう。 ギリギリまで引きつけ攻撃を躱す。 鶴嘴が空振った隙に鳩尾に向かって三つ石で穿った。 呻き声をあげ鶴嘴を振り落とすもののまた空振る。 懐に入り込んで鶴橋の柄を掴み腹を蹴り上げる。 化物がよろめいた。 鉱山の入り口から遠ざかるように距離を取る。 くぐもった声で帰れ、帰れと叫び突っ込んでくる。 跳ね避けながら細かく打撃を与えどんどん後退していく。 「イジハオデノモノダアアア〜〜!!! 」 滑稽な話だ。 奸計に乗せられた時点でもはや所有権などないに等しいのに。 ーーもうそろそろだ。 戻ってくる気配がした。 ものの積み重なっている方へ誘導し、跳躍。 頭のインク瓶を蹴り飛ばして怪物を押し倒し逃走。 雑用係とエースの呼ぶ声が聞こえた。 「オマッ、マジで無傷じゃん!? どうなってんだよ! 」 「当たり前。 私は天下御免の東雲紅緒様だから。 ていうか石は? 」 「獲ったぞ、ホラ! 」 「このまま逃げ切るんだゾ! 」 しかしそうは問屋は卸さない。 走って逃げる間にも化物がどんどん近づいてくる。 ぶなああああ、グリムが叫ぶ。 「どうするんだゾ。 」 「あ〜もう! こうなりゃやるっきゃねえ! 雑用係は下がってろ! 」 不遜である。 抗議すると、 「今までお前が頑張ったんだ。 今度は僕たちに花を持たせてくれ。 」 「そうだゾ。 お前ばっかいいとこ取ってってズリーんだゾ! 」 デュースもグリムも紅緒の前に立ち化物と対峙した。 紅緒も渋々後ろに下がる。 流石に二日間に渡って色々なことがあり疲弊していた。 グリムが吹いた火をエースが起こした風が巻き上げ火の渦になり怪物を拘束する。 デュースが呼んだ大釜がそのまま怪物の頭上から落下し押し潰す。 壮観だ。 青い火の粉が踊るように飛び散った。 「イジ、イジ……カエセエエエエ!! 」 化物が絶叫する。 風に乱れた髪を押さえながら一種異様な様に目を遣る。 本当に魔法なる術の存在する世界にいるのだ。 紅緒が与えていたダメージも相まり化物は無事に退治できた。 化物は叫び続けながら靄のように消え失せ黒い石が転がり落ちる。 三人と一匹は安堵のため息をこぼす。 「いえーい!! 」 と言ってエースが両手をあげる。 そんなにうれしかったのかと眺めていると怒ったように、 「ハイタッチだよ、ハイタッチ! 知らねえの? ほら、ベニオ手ェ上げて! 」 驚きながら両手をあげると、パンと手を叩き合わせた。 「じゃあ僕たちもやろう。 」 デュースとも手を叩き合わせる。 「オレ様もなんだゾ! 」 グリムもだ。 何が何やらとぼけっとしているとグリムが黒い石の方へ行き食べてしまった。 まあ所詮基本四つ足の獣である。 エースとデュースは驚きながらグリムに問い詰める。 「お前、そんなモン食って平気なのかよ。 あからさまに今のバケモンから出てたじゃねーか! 」 「ていうか、そもそも拾い食いをするな。 」 グリムはこんなうめーモンを食えないなんてニンゲンは可愛そうなんだゾ、とそ知らぬ顔だ。 「まったりとしていてそれでいてコクがあり香ばしさと甘さが舌の上で花開く……。 」 そう言って目をかっと開く。 「まるでお口の中が花畑だゾ! 」 ご満悦だ。 エースはため息ながらにわけわかんねえよ、と言い、 「ま、とにかくさっさと帰ろうぜ。 ほんと疲れた。 」 「まったく誰かさんが掃除逃げなきゃこんなことにならなかったのに。 」 「ほんとにな。 」 「ふざけんなよ。 実行犯お前だろ。 そもそもグリムがあんなとこに逃げなきゃ壊すことなかったじゃねーか。 雑用係の監督不行届だ、監督不行届! 」 軽口を叩き笑いあいながら帰路を急ぐ。 こちら側に友人ができた瞬間だった。 [newpage] NRCこそこそ噂話 名前だけ出てきたオリジナルキャラ解説 叢雲 霞柱。 悲鳴嶋と同い年。 悲鳴嶋より一年前に柱になっている。 気さくで書生風の洒落男。 鬼殺隊外で浮名を流しまくっていた。 朧ではないが自分だけの型を持っている。 性格は正反対だが悲鳴嶋と仲がよく遊びに行っていた。 その縁もあり胡蝶姉妹とも仲が良く、蝶屋敷にやって来たアオイやカナヲを気にかけていた。 黒死牟の最初の接敵及び足止めを引き受けた。 他四人の柱が到着した時にはほぼ絶命していた。 萩谷 水柱。 悲鳴嶋達より一つ年下。 二年前に柱になった。 冨岡が継子。 他の柱に比べて呼吸の適性がないが努力の人なので食らいついている。 何より他の柱よりとっつきやすくカナエと同じくらい親しみ深い柱だった。 上弦の壱戦時に絶命。 冨岡の脚絆は萩谷の羽織と同じ群青色の無地の布を使っている。 氷柱 紅緒、宇髄と同い年。 氷の呼吸は水の呼吸の派生。 伊之助同様感覚が良い。 宇髄とほぼ同時期に柱になり仲がよい。 甚太 紅緒の鎹烏。 物静かで有能。 紅緒の死後、墓の前に毎日花を供えている。 玄弥の血鬼術がない分を人海戦術でカバーしています。 奇跡的に上弦の壱の行動パターンを掴み足跡を辿り、戦術を練りきって勝つ可能性の一番高い作戦をとっています。 それでもギリギリで、紅緒が死ぬ前に隊士隠の多くと水と霞の柱が落命しています。

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ユニー系のミニスーパーのピ○ゴで働いています。私はアルバイト...

じゃあ 君 の 代わり に 殺 そう か 横田

戦慄する親友サイコサスペンス漫画が登場。 その名も『 じゃあ、君の代わりに殺そうか?』です。 原作は蔵人幸明先生。 作画は榊原宗々先生のタッグで描かれる作品。 主人公は過酷で絶望的なイジメを日々受けている藤倉優馬(ふじくらゆうま)。 一つの希望を頼りにイジメを耐え忍ぶ毎日の中、突如として救世主が現れます。 優馬をイジメから救い、親友になっていく男・雨里涼(あめざとりょう)通称アメリ。 イジメも無くなっていき、親友もできて絶望の毎日から少しずつ光が差し掛けていた優馬でしたが、徐々にアメリの危険な側面が片鱗を見せてきてイジメとは違った新たな地獄絵図を見ていく事へ。 突如、優馬の前に現れた天使と悪魔の仮面を被った男・アメリは一体何者で目的は何なのか…。 もしかしたらイジメを耐え忍ぶ毎日の方がマシだった…!?そんな危険な雰囲気漂う注目の漫画です! 目次• 漫画「じゃあ、君の代わりに殺そうか?」ネタバレ 西野率いる不良グループに日々、過酷なイジメを受けている優馬。 絶望的にキツイ状況なのですが優馬には生きる希望があり、その為であれば不良グループから受けるイジメは何とか堪え忍べる毎日。 ちなみに彼の「希望」であり生きる支えになっているのはハガキ職人で常連となり、行く行くは放送作家の道へ進む事。 不良グループから相変わらずの扱いを受ける中、突如優馬の前に現れてくるのが雨里涼。 通称アメリ(以下、アメリ)。 優馬に投げつけられた上靴を拾い、校舎の外へ投げ捨てていくアメリ。 『自分で拾ってこい、クソ共』 爽快な一言と共に優馬とコミュニケーションを取っていくアメリ。 只、優馬は至って冷静であり、あまり自分と関わらない方が良いとアメリに忠告。 アメリも同じくイジメの対象になってしまうと心配。 しかし、そんな優馬の心配を他所にアメリは優馬の友達になる事を伝えていく。 それ以降、アメリが不良グループに呼び出された現場へアメリもついていき、イジメから優馬を救っていく。 只、不良グループも黙っていない。 不良のモブキャラ二人はリーダーである西野に伝えてアメリを制裁してもらう事へ。 親友の危険な側面が片鱗を見せていく…!? 優馬イジメの邪魔をするアメリの存在を知った西野は彼を排除しようする行動へ出ていく。 その翌日になるとアメリは学校を欠席。 再びモブキャラ二人に壮絶なイジメを受ける事になっていく優馬。 一方、優馬に対するイジメを対処しようと一人の生徒が立ち上がっていく。 この漫画のヒロイン役になるのだろうか…横田悠奈(よこたゆうな)といった女子生徒が教師へイジメ問題を投げかけていく。 しかし、まったく取り合ってもらえず…。 そんな中、校内では不穏な事件が発生。 トイレに立っていた不良モブキャラの一人、村上が何者かに殴打され、髪まで燃やされて救急車で運ばれていく。 もう一人の不良モブキャラは痛めつけの手口が西野とそっくりだった為、影で西野の事を悪く言っている事がバレて報復されたのだと考えていく。 モブキャラはチクったのが優馬だと考えて呼び出し、真相を確かめていく事へ。 ここで欠席だと思っていたアメリが登場。 モブキャラの執拗な追求から優馬を救っていく。 その後、モブキャラは何者かにバットで頭部を殴打されフェードアウト。 アメリと親交を深めていく優馬は彼の自宅へ遊びに行く。 世間話をしつつ、突如優馬に爆弾を投げ込んでいくアメリ。 彼は切断された指2本を優馬に手渡し、自宅の地下室に西野を監禁していると伝えていく…。 親友は天使なのか…悪魔なのか…新たな地獄が始まる!? 監禁している西野の場所まで優馬を誘導していくアメリ。 只の地下室ではなく拷問部屋のようになっており狂気を感じていく優馬。 そして顔は腫れ上がりながらも報復の意志を強く見せていく西野。 ここでアメリは優馬に問いていく。 西野を解放するか…殺害するか…。 解放すれば死を予感させるような報復が待ち構えている。 殺害すれば警察の追求に捜査、社会的な死も待っている。 逃がすも殺すも地獄といった状況と危険過ぎる友人の側面を見て頭を悩ませていく優馬。 一方で優馬を心配する女子生徒、悠奈もある問題に直面していた。 彼女もまた優馬と同じように過酷なイジメを受け続ける瀬戸際に立たされていたのだ。 そんな中、警察も動き出していく。 西野の失踪。 校内で起こった2つの暴力事件。 アメリに警察が動き出した事を伝えるも微動だにせず、全て上手くいくと優馬に伝えていく。 アメリから西野の処遇の選択権を託されたまま保留中の優馬は頭を悩ませていく。 そんな中、過去に優馬を守っていた姉的存在である麻央と遭遇する優馬。 彼女に諭された優馬は西野と向き合い、話し合いで問題を解決、和解する道を選択していく。 アメリから自宅の鍵の隠し場所を聞いていた優馬はアメリ宅へ行き、西野と邂逅する事へ。 しかし、地下室では四肢を縛っていた拘束具を自力で外していた西野。 地下室に身を潜め、報復の機会を狙っていました。 そこへ丁度良く現れてしまった優馬。 西野から報復を受けていく事へ。 拷問部屋にあった水酸ナトリウムで優馬の顔を焼こうとしていく西野。 絶対絶命の中、アメリが帰宅。 返り討ちに合う西野。 そしてアメリは傷を負った優馬を病院へ向かわせていきます。 病院で偶然にも学校へ聴取に来ていた刑事二人と遭遇してしまう形へ。 不可解な傷を負っていた優馬を怪しむ刑事。 そこへアメリから連絡が…。 彼は西野を殺したと優馬に伝えていきます。 ここで1巻は幕引き。 漫画「じゃあ、君の代わりに殺そうか?」感想 絶望的なイジメの日々から突如、救い出してくれる救世主。 しかし、フタを開けると救世主であり親友となったアメリの危険過ぎる側面に悩まされていく事へ。 また作中で優馬を心配するヒロイン役である悠奈も危険な側面がある事が伺えてきます。 まだ1巻が配信されたばかりですが、 一気に引き込まれていきました。

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#7 鬼殺隊最弱女にロマンスはやって来ない

じゃあ 君 の 代わり に 殺 そう か 横田

書いてもらって良いですか…?」 先ずは四人に謝って貰わないと 多分、この庭で戦ってた煉獄さんにも一パーセント位非はある筈だ 「手紙?…分かった。 だが、目の前に家主がいるのに手紙を書くというのは、なんというか…」 あー、やっぱりそうなるわな 手紙なんて書かんでも、直接言った方が早いもんな分かる分かる でも、それは私が一般人だったらの話だ 「違いますよ、手紙は私宛では無くこの庭を作り、手入れをしていた人達です。 犀星さんと朔太郎さんと辰雄さん、あと敦さん宛に書いて下さい」 そう、この庭は私が作った訳ではない 犀星さんと敦さんが土を整えて、朔太郎さんが花を選ぶ、そして辰雄さんが植える 私一人の体しか使えないから、結構時間はかかったけど出来上がるまでの過程を見るのは好きだった だからだろうか 「…ちょっと、悲しいな」 無意識にそんな言葉が出てしまう 花が特別好きだった訳では無いが、誰かが努力して作り上げた物は何だって美しい その上、私は案外この庭がお気に入りだったから そんなぐちゃぐちゃになった庭を見つめたまま動かない私を見てか 「申し訳ないッ!!!!!!」 煉獄さんは土下座を決め込んでいた oh…ジャパニーズ土下座… こんな綺麗なの初めて見た 「まぁ、やってしまった物は仕方ありませんし、あの四人なら煉獄さんが誠心誠意謝罪した手紙を読めば怒る事は無いと思います…それじゃ、私はお茶淹れてきますね。 こうして空の下に出ているから鬼では無いのは確認した、だが…やはり…」 理解が出来ないってか?…まぁ、そうだろうな! 私だって面識の無い人が突然、私!多重人格ですー!って言ってきても信じられんもん でもなぁ 「煉獄さんは、柱だった人ですから柱合会議にもいましたよね?その時、私がした説明が全てです。 それでは、納得できませんか?」 あの時、緊張の中掻い摘んで説明した内容以上の事だと、もう死んだ所から話すしか無いのだけど 「納得…そうだな、納得はしていない。 目の前で髪の色や人格等を変え、万年筆を武器に変える。 俺には到底理解も納得も出来そうにない」 これは、全部話せフラグですかな… 此処で逃げても良いんだろうけど、多分逃げたら面倒臭い事になるって司書の感が言っている 「はぁ…いい加減覚悟を決めろ。 というお告げですかね…」 心臓がバクバクする、居心地が悪い。 だから、少しでも安心する様に万年筆を握る 「良いですか、これから話す事全て事実であり、私が体験した事です」 らしくも無い真面目な顔をして煉獄さんに向き直れば、煉獄さんも真面目な顔になりこくりと頷く 「私は、この大正の世から二つ先の世に産まれました。 そしてその時代では文学が消える危機にあり、私はそれを阻止する為の組織に属していた」 「文学?つまりこの本が無い…という事か?」 この時点で理解の範疇を超えてるだろうに、時代の事では無く煉獄さんはその手に持つ本を掲げる 「説明が難しいんですけど、本自体はあるんです。 読むことも出来る、だけど消えて行ってしまう」 「消える?」 「侵蝕者と呼ばれる存在です、この世界で言う所の鬼?ですかね…彼奴らは本を侵蝕する事で本に関わる記憶を無差別に消して行く。 記憶、本の内容、本によって生じた物事…本当に何でもです」 侵蝕者は見た目してえげつない 纏まらぬ洋墨ちゃんとかほんと…ほんと… 「それを阻止する為に私は戦の指揮を執る立場にいました。 戦うのはその本や数多の小説や詩、童話等を書いた作者達、文豪です」 煉獄さんが驚いた様に顔を本に向ける 「文豪と言っても今この時代に生きてるであろう本人ではありません。 死した後に残った彼等の魂や、人々のイメージ。 作品傾向から私達錬金術師が、人型に作り上げる…まぁ、戦う事が嫌だと言われたら強要はできませんのでそこは一言会話を交わしてお別れしましたけど」 「…そこから愉快な仲間達と楽しく、時に必死に毎日を過ごし、色々ありまして私は死にました」 隣で小さな驚きの声と、息を生唾を飲んだ音がする 「死んだ筈なんですけど、思った以上に皆が私の事。 大好きだったみたいなんです、皆が私が死んだ事を受け入れず、私が死なずに生きた世界線を描いてくれた。 そうして今の私が生まれました」 はい、終わり と、そう言って冷めたお茶を一口飲む やっぱり、季節的に冷たいお茶の方が良かったかもしれん 「この世に私が存在している理由は分かりません。 恐らく私の錬金術師の力と、文豪の力が化学反応を起こして別の世界線に来てしまったんだと思うんですけど」 「そうか、あまり現実的な話では無いが、信じよう」 「あら?てっきり巫山戯るなと一喝されて泣き寝入りする所まで想像してたんですけど」 煉獄さんはあの熱さで意外とロマンチストの気があるのかもしれない 「君の過去は分かった。 だが、何故その様な体質になったのだ?それが分からない」 「簡単な事ですよ、名だたる文豪達が同じ人間を主人公に物語を書いたんですよ?その言葉の力は計り知れません。 尚且つ私は不可能を可能にする事が出来るかも知れない錬金術師です。 言葉の力と錬金術師の力が一つになり、煉獄さん達にとっては現実であり、私達にとっては非現実なこの世界に繋がった。 そして、魂だけの私は先生達を転生させる時の様に人型を取る為、先生達全員を無理矢理取り込んで体を作った。 だから器と容量の均衡が取れずに出たり入ったりが激しい」 それが、この特異体質の真相です そう、私が笑えば煉獄さんもぎこちなく笑い、またそうかと一言呟いた 「さ!私の話は終わりました、煉獄さんにはお帰り願いましょう」 「よもや!」 「私だって、暇ではないんです。 謝罪の手紙も書き終わってるでしょう?玄関までお送りします」 抒情小曲を貸し出しカード代わりの風呂敷に包んで煉獄さんに渡す 「今日から14日以内、この風呂敷と一緒にお返し下さい。 もし、読み切れない様なら期限を伸ばしますので、連絡を下さい」 そして、そう言い切った後、私は目を閉じた [newpage] 「君。 どうせ今迄の話を上に話すんだろう?」 突然響いた声 案の定と言うべきか声の主に目を向ければ、長い黒髪を纏めた一人の女がそこに立っていた 「あぁ、そのつもりだ」 「そう、僕達にとっては司書さんが無事なら何も言わないさ、けれどね、もし君達が司書さんに手をあげようとするなら僕達は全力で君達を潰す」 いつの間にか首に添えられた刀 俺でもその殺意に気付けなかった 「よもや、全く気付かなかった」 「普段地味だ地味だ言われているからね、でも、今だけは許しても良い気がするよ。 なんせ、君みたいな強者を手を煩わせずに倒せるんだから」 敵わない、何故かそんな言葉が頭に過ぎった 扱い方からして恐らく刀は、殆ど振るったことの無い人間だろう なのに、そう感じさせない威圧感がある 「あと、君が荒らした庭の事はちゃんと報告させてもらうから…じゃあね、本は期限内に返すんだよ」 そう言って半ば無理矢理門から追い出される その刹那見えた、刀が指輪になる瞬間とその指輪を愛おしそうに撫でる手付きがどうしてか目に焼き付いていた.

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